しない・させない・させられない

Dans la vie on ne regrette que ce qu'on n'a pas fait.

USA50州・MLB30球場を制覇し,南天・皆既日食・オーロラの3大願望を達成した不良老人の日記

タグ:アトラス彗星(C_2019Y4_ATLAS)

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 2020年はおかしな年です。まるで,天が人類を試しているかのようです。
  ・・
 梅雨入りをしたら,まったく晴れなくなりました。日照時間は例年の3割だそうです。そしてまた,まったく台風が発生しませんでした。
 何かすべての歯車が狂っているようです。それはおそらく,世界を作った神様のプログラムにバグがあったからなのでしょう。
 そんな中,人類が慌てふためく姿を天が視察に来たかのように,突然,明るい彗星が立て続けに地球に接近しました。

 そのはじめがアトラス彗星(C/2019Y4 ATLAS)でした。4月に明るくなって肉眼でも見えるということで,大いに期待しましたが,予想に反して明るくなりませんでした。
 次がスワン彗星(C/2020F8 SWAN)だったのですが,この彗星の軌道から,南半球ではその明るい姿が見えたものの,北半球では明け方と夕方の,まだ空が暗くならないころに地を這って見えただけでした。しかも,月明かりが邪魔をしました。
 その次がレモン彗星(C/2019U6 Lemmon),そして,極めつけがネオワイズ彗星(C/2020F3 NEOWISE)でした。しかし,レモン彗星もネオワイズ彗星も,最も明るかったころはずっと天気が悪く,いずれも,雲がその姿を覆い隠し,見ることがかないませんでした。
 特に「2020年の大彗星」となったネオワイズ彗星は残念でした。私はその姿見たさに北海道まで足をのばすことになりましたが,幸い,北海道でその美しい姿を見てきたことは,すでに書きました。

 さて,7月31日。ついに晴れました。自宅で青空を見るのは1か月ぶりのことでした。すでに7月の新月はとうの昔に終わり,南の空には,1番目の写真のような月齢10の明るい月が星の光を隠していました。いつもなら,こんな月の明るい時期に星見などしません。しかし,久々にやってきた晴空だったので,ネオワイズ彗星を見にいくことにしました。
 ネオワイズ彗星は,2番目の写真のように,さすがにもうずいぶん暗くなっていたのですが,それでも簡単に双眼鏡で見ることができました。北海道で見てきたときとは位置も変わり,4番目の写真のように,今はかみのけ座にいるので,もし,月明かりがなければ,かみのけ座の銀河団とともに,その姿を美しく捉えることができたことでしょう。それがとても残念でした。また,3番目の写真のように,そのお隣にいるレモン彗星は,すでに9等星まで暗くなっていました。
 それでも,このふたつの彗星を,やっと自宅から1時間ほどの場所で写すことができて,この晩は満足しました。そして,月明かりを恨めしく思いました。おそらく,北海道に行っていなければ,この日がネオワイズ彗星を見る最初の晩となったことでしょう。そして,非常に残念に思ったことでしょう。

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☆☆☆☆☆☆
 梅雨の季節とはいえ,これほど晴れないものなのでしょうか? それとも,これほど晴れないのは今年だけのことなのでしょうか? 前回青空を見たのはいつのことなのだろうか,もう忘れてしまいました。
 楽しみにしていたネオワイズ彗星(C/2020F3 NEOWISE)でしたが,まったくその姿を見ないで終わってしまう人が少なくないことでしょう。ヘールボップ彗星(C/2015O1 Hale-Bopp)以来23年ぶりに0等星まで明るくなって,北斗七星よりも長い尾を引いた世紀の大彗星,それも,明け方でなく,夜9時ころの北西の空に見ることができたというのに,ずっと天気が悪く,晴れを待ちわびるうちに,すでに明るかった全盛期は過ぎ去り,今は,4等星ほどまで暗くなってしまったといいます。
  ・・
 子供の頃から星空に興味をもっていたとはいえ,大した機材も持たず,また,せっかく買った機材さえもほとんど使うことなく,ディジタル化の波にも乗り遅れていた私が,今のように,どうにか,実際に頻繁に星見をするようになった動機は,2013年の年末に地球に近づいたアイソン彗星(C/2012S1 ISON)でした。
 太陽に接近して消滅してしまい,期待外れに終わったアイソン彗星ではありましたが,それを機会に機材を整備し,星を見に行く場所も見つけたので,それ以来,私は,彗星の写真を撮る楽しみを覚え,日本から見ることができる10等星より明るくなった彗星はすべて写すという目標をもって,これまで,数多くの彗星を写真に収めてきました。しかし,明るくなってもせいぜい6等星くらいで,肉眼ではっきり確認できる彗星どころか,双眼鏡でさえ見ることがむずかしいような暗い彗星しか現れなかったのを,とても残念に思っていました。
 一度でいいから,1997年に明るく見えたヘールボップ彗星,までとはいわずとも,明るい肉眼彗星を再び見たいものだと思っていました。そして,ついにそれが現れました。ところが…。

 2020年は大変な年になりました。人間はわずか100ナノメートルほどの小さなウイルスの餌食となりました。このちっぽけな地球から逃げだす場すらないということを,私は実感しました。
 しかし,そうした災いが起きても,依然として人間は愚かなままです。助け合うどころか,逆にいがみ合い,その災いを外交や政治の道具にしたり,金儲けの手段にしたりと,まったく懲りないのです。せめて,空の上の出来事くらいは,そうした人間社会の愚かさを離れて楽しむことができれば,と思っても,明るくなると予想されたアトラス彗星(C/2019Y4 ATLAS)もまた,そんな人間をあざ笑うかのように,期待外れに終わりました。しかし,もし,このアトラス彗星が明るく輝いたとしても,自粛とやらで,そんなことをしてもまったく無意味な屋外の広場でさえ閉鎖されていたので,それを見る場所もありませんでした。
 そしてまた,予想を超えて明るくなったネオワイズ彗星が近づきました。。昔なら,この災いを彗星=ほうき星のせいにしていたかもしれません。しかし,これもまた,人間の愚かさをあざ笑うかのように,天は低く垂れ込めた厚い灰色の雲でその姿を遮り,ほとんどの人は,それをまったく見ることができませんでした
  ・・
 私は,これまで10等星くらいの暗い彗星まですべて写してきたのにもかかわらず,これほど明るい彗星を見損ねることが自分にとても許せませんでした。そして,なんとかその姿をひとめ見ようと,急に思い立って出かけた北海道でした。願いはかない,このネオワイズ彗星の長い尾を引いた鮮やかな姿を,確かに,この目で見ることができたのは,とても幸福なことでした。
 今日の1番目と2番目の写真はそのときに写したものです。特に,2番目の写真に一緒に写った北斗七星と比べてみれば,尾の長さがわかるというものです。そして,3番目の写真は,国立天文台がハワイ島マウナケア山で写したものです。
 もし,この彗星の接近があと数か月早かったら,おそらく私は北海道に行くことすらできなかったことでしょうから,彗星が見られたのは幸運なことだったのかもしれません。しかし,北海道から帰っても,依然として連日天気は悪く,つい1週間まえに快晴の北海道でネオワイズ彗星を見たことがもはや夢のようで,彗星は再び雲の上のものとなってしまいました。
  ・・
 まもなく梅雨が明けます。そうしたら,また,青空はもどってくるのでしょうか?
 空の上には,暗くなったとはいえ,7月から8月の夜空には,まだ,ネオワイズ彗星を見ることができます。さらに,これもまた,暗くなりつつあるとはいえ,レモン彗星(C/2019U6 Lemmon)も輝いています。
 再び,こころ置きなく美しい星空が楽しめる日が来るようにと祈ります。星に願いを込めて。
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 桜が咲くまでは暖冬だったのに,桜が咲くころになって寒くなり,おかげで花の季節が長くなりました。例年と違って,せっかく咲き誇っていても見る人が少ないのは桜にとっても無念でしょう。
 私は花粉症でないので花粉のことはわかりませんが,春といえば,例年ならこの時期は大陸からのPM2.5と黄砂に悩まされるのに,PM2.5が少ないのはわかりますが,黄砂も少ないのはどうしてなのでしょう。よって,星がよく見えます。

 現在,10等星より明るい彗星が3個,すべて北西の空にあって,日没から捉えることができます=1番目の星図。やっと月明かりの影響がなくなりつつあり,天気もよかったので,4月14日の夕方,彗星の写真を撮ることにしました。
 3個の彗星のうちアトラス彗星(C/2019Y4 ATLAS)が世紀の大彗星になるという思ってもみない朗報があって,大いに期待したのですが,月明かりで星が見えなかった時期に,どうやらアトラス彗星は分裂してしまっただの,もうすぐ消え去る運命だのといった残念なニュースが聞こえてくるようになりました=2番目のグラフ。そこで,実際はどうなのかという興味がありました。
 以前にも書きましたが,まずはこの3つの彗星についてのおさらいです。

●アトラス彗星(C/2019Y4 ATLAS)
 2019年12月28日にATLASサーベイによってハワイ・マウイ島のハレアカラに設置された望遠鏡 ATLAS-MLO で発見されたものです。5月にかけて世紀の大彗星になるかと予想された彗星で,現在はきりん座を動いています。
  ・・
●アトラス彗星(C/2019Y1 ATLAS)
 こちらのアトラス彗星は,先に書いたアトラス彗星(C/2019Y1 ATLAS)に先立って,2019年12月16日にATLASサーベイによってハワイ・マウイ島のハレアカラ(Haleakala)に設置された望遠鏡 ATLAS-MLO で発見されたものです。
 現在はカシオペヤ座にいて一晩中沈まないのですが,高度が低く,北極星の周りを日周運動で反時計まわりに半円を描いて動きます。時計の文字盤に例えると太陽が沈むと7時のあたりに見えはじめ,夜明けが近づくと4時の方向で消えていきます。つまり,ずっと地平線ぎりぎりの低い高度を這っていくのです。予想より明るく8等星ほどだそうですが,このように高度が低いので,写真に撮るのはあきらめていました。
  ・・
●パンスターズ彗星(C/2017T2 PanSTARRS)
 2017年10月2日にハワイ・マウイ島のハレアカラにある1.8メートル Pan-STARRS1望遠鏡で写したCCDの画像から発見されたものです。もっと明るくなるという前評判でしたが,どうやら8等星止まりというところです。しかし,彗星と地球と太陽の位置関係がずっとよく,長い間楽しめています。この彗星も今はきりん座にいます。

 この晩はとにかくはじめにアトラス彗星(C/2019Y4 ATLAS)を写すことにしました。きりん座というのは明るい星がないので,私の使っている古い望遠鏡では自動で導入することもできないので彗星のいる位置を探すのにも一苦労です。私にはめずらしく予習をして,事前にどうやって導入するかを調べておきました。おおくま座から順を追ってファインダーに次々星を入れていって場所を特定しました。写してみると,もっと暗くなっているかと思ったのですが,意外に明るく,しかもかわいい尾をひく姿を簡単に見つけることができました=3番目の写真。
 アトラス彗星を写しているときに,地平線ぎりぎりにカシオペア座が見えました。こんな低いところにカシオペア座がはっきり見えるのに驚きました。そこで高度が低くならないうちに急いでもうひとつのアトラス彗星(C/2019Y1 ATLAS)を写すことにしました。場所はカシオペヤ座のγ星の近くなので,すぐに探せました。この彗星の写真を撮ることができるとは期待していなかっただけに,写せてホッとしました=4番目の写真。
 そして,最後にパンスターズ彗星(C/2017T2 PanSTARRS)を写しました。この彗星もまたきりん座にあって,探すのに苦労するのですが,最初に写したほうのアトラス彗星の位置からとパンスターズ彗星の位置から簡単に探すことができました。この彗星はすでに何度も写していたので,この晩は後回しにしてありました。最も明るい時期は過ぎていますが,依然健在で,かわいい姿をとらえることができました=5番目の写真。
 こうして,この晩は写したかった3つの彗星を短時間ですべて写すことができました。5月に太陽に最接近するアトラス彗星(C/2019Y4 ATLAS)がどうなっていくかが今後の楽しみです。

◇◇◇

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 このブログは私が自分の記録用に書いているので,いささか「おたく」化しつつある懸念はあれど,今日もまた月と惑星の接近を書きます。
  ・・
 ことのはじまりは,すでに書いたように,3月19日,火星と木星と土星と月が接近するので,その写真を写したらどんなに美しいのだろう,というだけの動機でした。そのことを知ったのは,その少し前のことだったのですが,調べてみると,3月18日から3月20日までを観察して,月が惑星の間を動くのを観察しよう,とかいう記事がたくさんありました。学校も休みだし,望遠鏡もいらず,肉眼で見ることができるので,子供は早起きしてこんな観察でもすれば楽しかろうと思うのですが,そんなことをしている姿は見ませんでした。

 3月18日は曇り空で一応星見に出かけたのですが,薄い雲の間から時折月が顔を出すだけでまったく星は見えませんでした。
 結果として,幸い3月19日から3月22日まではすべて晴れましたが,はじめの目的のように,3月19日に我ながらイメージ通りの写真が写せたので満足しました。このときの写真はすでに載せました。
 この時点まで,私の関心は,月が火星,木星,土星の3つの惑星に接近することだけだったのですが,では,水星はどこ? とさらに調べてみると,なんと,水星も明け方の空に,水星としては高い高度で見られることがわかりました。
 水星はきわめて太陽に近いので,夕方か明け方の空低くしか見えません。太陽からもっとも東側に離れるときを「東方最大離角」,西側に離れるときを「西方最大離隔」といい,東側に離れたときは夕方,西側に離れたときは明け方見ることできます。そして,3月24日が「西方最大離角」だったのです。
 こうなると,3月19日に写した写真に水星を入れ忘れてしまったことを後悔しましたが,歳のせいであきらめがはやくなり,まあいいかと妥協しました。これでやめようと翌日3月20日は目覚ましもかけなかったのですが,目が覚めてしまい,外をみると,美しく惑星と月が輝いていたので,準備もそこそこ,起きたばかりの格好で防寒具だけ羽織って,カメラと三脚だけをかついで外に出て,自宅の近くで,水星は肉眼では見えなかったけれど,この辺りだろうと視野に入れて写しました。あとで確かめると,水星もちゃんと写っていました。
 
 家に戻って,さらにさらに調べて行くと,次第に月齢を上げて薄くなっていく月ですが,翌々日の3月22日には高度の低い水星よりさらに低く昇ることがわかりました。さすがに暗すぎ光度が低すぎ,これを見てみようと書いてあるものはありませんでしたが,こうなると,見えるかどうか確かめてみようと思うようになりました。こんなに低い月ではどこにあるか肉眼では探せません。そこで,月がまだ肉眼でもはっきり見える3月21日に月や水星の位置を確かめておいて,3月22日は同じ場所で同じ時間に地平線ぎりぎりの月を探してみることにしました。
 3月21日はとても空の条件がよく,きれいな朝焼けも見えました。今日の1番目と2番目の写真が3月21日に写したものです。
 そして,待望の3月22日になりました。19日から21日まで連日晴天だったので,さすがにこの日は天気が心配で半分期待はしていなかったのですが,東の空に木星が見えたのでどうやら晴れているようでした。しかし,空全体が灰色に濁っていて,最悪の条件でした。春は春霞といって,暖かい日の空はだめです。いつもの撮影場所に行っても,かろうじて木星と土星が見えるだけ,火星もやっと探し出せるいような空でした。
 前日確かめておいた月の昇ってくる場所を双眼鏡で何度も探しましたが何も見えないので,ともかく位置を決め,画角も決め,ピントをしっかり合わせて,単なる空の写真を撮りました。しかし,写した写真をモニターで何度確認しても,ここにあるはず,という場所なのにもかかわらず,何もわかりませんでした。がっかりしました。この日の月齢は27.2。私は過去に同じ場所で月齢28.4の月を写したことがあるので,写るはずなのです。私が期待したのは,今日の4番目のイメージ写真のような細く美しい月が水星と縦に並んだ姿だったのですが…。
 家に帰って,写してきた写真をコンピュータに取り込んで拡大しながらずっと眺めました。まず,かろうじて水星を見つけました。その位置から探していくこと30分,どうにか月を探し出すことができました。単なる自己満足ですが,それはそれで,やり遂げた感がありました。それが今日の3番目の写真ですが,果たして月がおわかりになるでしょうか?
  ・・
 ところで,水星,火星,木星,土星と4つの惑星が明け方の空に並んでいるのですが,残る金星はどこにいっちゃったのでしょうか。
 そう,金星は,夕方の空高く,ひときわ明るく,まるで孤独を楽しむかのように,4月1日の「東方最大離角」を目指して,輝いているのです。そして,その近くには天王星も寄り添っていることは,すでにブログに書きました。なお,海王星は水星と太陽の間にあって,3月22日は月よりさらに高度が低く,つまり太陽に近く,現在は望遠鏡を使っても,まったく見ることができません。
 次の日は新月なので,これで惑星と月を追いかける日々は終わりです。

☆ミミミ
今後は,明るくなるという前評判がどんどん高くなりつつあるアトラス彗星(C/2019Y4 ATLAS)を追いかけたいと思います。写真は3月23日に写したアトラス彗星ですが,すでにかなり明るくなって,尾も見えはじめました。

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◇◇◇

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 何がすばらしいかといって,明け方,太陽が昇る前の夜空ほどすばらしいものはほかにありません。それに比べたら,太陽が顔を出した後の世界は,たとえは悪いのですが,何か悪夢を見ているかのようです。特にこのごろは世界中が耐え難い不安に包まれています。
 今回とはまったく原因は違うのですが,リーマンショックのときの株価や為替の変動は,今とそっくりでした。あのときもまた,多くのマスコミや政治家やアナリスト,そして無責任なワイドショーのコメンテーターたちが言っていたことはまったくあたらず,冷静な少数の人たちの声なき声が語っていたように相場は動いていきました。おそらく今回もまた,そのときと同じ動きをするのでしょう。
 現在は,どんな対策を打ち出そうとそんなことには関係なく,まるで底なしの泥沼に土をくべていくような感じに思えます。であっても,多くの人が飽き飽きしてきたころになると,やっと入れていく土の量が泥を凌駕してすべてが解決するのです。そのころには,人々は今の危機的状況を忘れすっかりもとの生活に戻って,また,懲りもせず浮かれはじめるのです。
 私は,リーマンショックのとき,つくづくそう感じました。長く生きていると,世界はこんなことの繰り返しだということだけはわかってきました。

 さて,星空のお話です。
 明け方の空には,火星,木星,土星がずっといて,動きの速い -それは地球に近いからですが- 火星がほとんど位置のかわらない木星と土星の間を駆け抜けています。そして,火星よりもまたずっと動きの速い月がそれらを追い抜きながら,姿を変えていくので,それらの姿を毎日眺めていても,決して見飽きるものではありません。
 3月19日の早朝は,木星に接近した火星と,その間を縫って高度を下げた月が土星に接近して,月と3つの惑星を同時に写真に収める構図の写真が撮れるという状況になりました。
 月が昇るのは3時10分過ぎだったので,2時過ぎに東の空の開けた場所に向かいました。

 到着したときはまだ早く,月が昇るまで,アトラス彗星(C/2019 Y4 ATLAS)がM81,M82 銀河に接近しているというので,それを写しながら待ちました。
 やがて,東の空にいつの間にか月が姿を現しました。この朝はあまり大気が澄んでいなかったので,昇ったばかりの月は真っ赤で,その隣にあるはずの土星はなかなか肉眼では見えませんでした。20分くらい待って,月の高度が高くなると,土星も見えてきて,火星,木星,土星と3つの惑星と月,そして,背景に地上も入る角度の写真が写せるようになったときに撮ったのが,今日の1番目の写真です。
  ・・
 2番目の写真は,先に書いたアトラス彗星とM81,M82銀河を同時に収めた写真です。銀河を一緒に収めるために画角の広い180ミリ望遠レンズで写したので,彗星が暗くしか写っていないのが残念です。
 このアトラス彗星ですが,当初の予想からは大きくはずれ,3番目のグラフのように,このところの光度上昇の変化の度合いから,来月4月末には0等星,そして,5月末にはマイナス25等星といった,とんでもない予想がたちはじめました。おそらくそこまで明るくはならないでしょうが,久々の大彗星が見られるかも,といったうわさも聞こえはじめました。
 彗星は,軌道は決まれど,彗星本体がどれほどの大きさであってその組織がどうなっているかがわからないので,太陽に接近したときにどのくらい明るく輝くかという光度の予想は常に水モノです。多くの場合は期待外れに終わりますが,まれに大化けします。さて,今回はどうでしょうか?
 このまま順調にいけば,次第に太陽に近づいていって見えなくなる5月20日ごろまで,しだいに明るく大きくなっていって,北西の夕方の空に尾をひいた彗星が肉眼でも見られるようになることでしょう。

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☆☆☆
次の写真は3月20日午前5時20分の東の空です。昨日とはうって変わって,とても澄んだ空でした。月齢は25.2。月の位置がずいぶん変わったことがわかるでしょう。地平線ぎりぎりには水星も昇ってきました。

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 私は,何事につけ,ムダなことをしたくありませんし,しないように心がけてきました。だから,身につかないような勉強もしなかったつもりだし,必要のない資格もありません。使わないものは買いません。そしてまた,何ごともさりげなくすることが最善だと信じています。何もかも,必要十分を旨とします。
 そこで,旅に出かけるときの荷物も,使わないものは一切持っていかないので,1週間程度の旅でも機内持ち込にサイズのカバンひとつです。
  ・・
 そんなわけで,私が楽しみにしている星見もまた,私が楽しむために必要であると思う最小限の機材しかありません。
 趣味というのは恐ろしいもので,たとえば「レンズ沼」という言葉があるように,欲望は底なしなのです。「レンズ沼」というのは,カメラの交換レンズをいくら買ってもさらに欲しくなることですが,それはレンズに限らず,プロでもないのに,新しいカメラが発売されると「買いだ買いだ」とばかりにどんどん購入する人がいるわけです。

 ということなのですが,貧乏人の私は,もともとほとんどモノを買わないことに加えて,60歳を過ぎたときに,さらに,新しいモノは壊れたときの買い替え以外は一切しないと決めました。
 私が星の写真を撮っている機材は,ハレー彗星が来た1986年ごろ,つまり,30年以上前に20万円以下で購入したものです。今ではもちろん製造中止なので,不具合があれば自分で何とかするしかありません。また,現在市販されているような,自動で星を追尾してくれるオートガイダーなどというものはもちろんついていません。しかし,一応,スイッチを入れると星の動きに合わせて動くし,今売られているものよりずっと作りがいいので,それで満足しています。
 この望遠鏡の問題は電源でした。12ボルトの電源が必要というのは,屋外で使うには結構難問で,毎回重いバッテリーを持っていく必要がありました。私は改造して,モバイルバッテリーの電圧を回路で増圧してUSBで接続しこれで動くようにした(モバイルバッテリーの電圧は5ボルトなのでそのままでは使えません)ので,ものすごく便利になりました。また,アリ溝で簡単に組み立てできるようにもしましたし,パーティノフマスクで簡単に正確にピント合わせもできるし,ヒーターで常に夜露がつかないようにもしてあります。また,カメラは安価な中古ですが,天体用に改造してあります。

 私が星見に出かける空が暗い場所は,自宅から1時間30分程度ドライブする必要があるのですが,これでは頻繁に出かけるわけにもいきません。そこで,都会に近くて空が明るくても街灯さえなければなんとかなるのではないかと探して自宅から15分で行ける場所を見つけたので,そこで試してみることにしました。そうすれば,出かけて15分,観測場所に到着して,望遠鏡を組み立て,極軸と焦点を合わるまで5分という手際で,20分後にははじめることができ,1時間後には帰宅できます。
 そんな次第なので空は明るいのですが,それでも少しでも条件がよいのは明け方です。夜明け前は家から近くとも暗いのです。また,家から近いというのは,明け方に星見をするのにとても楽です。3月1日の明け方も,前の晩に降っていた雨が上がるということだったので,3時30分に起きて,星見に出かけました。予想どおり快晴でした。今日は,そのときに写した写真です。
  ・・
 先日,夕方の北の空にいくつかの彗星を写しましたが,そのうちの岩本彗星(C/2020A2C/ Iwamoto)とアトラス彗星(C/2019Y4 ATLAS)は北極星に近く,一晩中沈まず, 明け方の空にも見ることができるので,このふたつを狙いました。ともにとても暗いものなので,写るかどうかわからないのですが,そこが楽しいのです。
 で,その結果,アトラス彗星は今日の1番目の写真のように,かわいい姿を写すことができました。しかし,岩本彗星は写りませんでした。2番目の写真で赤い〇で囲んだ星々がステラナビゲータというソフトで表示される星,そして,緑色の大きな〇で囲んだ範囲に岩本彗星がある「はず」なのですが…。思ったより暗いのか拡散しちゃったのか,あるいは露出時間がまずいのか???
 ところで,今日の4番目の写真は,単に試し撮りとしてこと座のベガを写したものですが,ベガの上左に彗星状の「モノ」が写っていました。こんなところに何の天体もないはずなのに,いったいこれは何なのだろう???

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☆☆☆☆☆☆
 2番目の星図にあるように,現在,夕方の北の空に暗い彗星がいくつか存在します。どれも暗いのですが,まず,西側にあるものから順番に紹介します。
  ・・
●アトラス彗星(C/2019Y1 ATLAS)
 2019年12月16日にATLASサーベイによってハワイ・マウイ島のハレアカラ(Haleakala)に設置された望遠鏡 ATLAS-MLO で発見された彗星です。
 ATLAS( Asteroid Terrestrial-impact Last Alert System)サーベイは 地球に衝突する可能性のある地球近傍の物体を検出するために設置された口径0.5メートルのロボット望遠鏡で,ハワイ・マウイ島のハレアカラ の ATLAS-HKO とハワイ島マウナロア の ATLAS-MLO があります。
 明るさは10等星ほどで低空にあって,まもなく日本からは見ることができなくなります。
●シュワスマン・ワハマン第1彗星(29P Schwassmann-Wachmann)
 1927年11月15日にドイツ・ベルゲドルフ(Bergedorf)のハンブルク天文台(Hamburger Sternwarte)のアルノルト・シュヴァスマン(Arnold Schwassmann) とアルノ・ヴァハマン (Arno Arthur Wachmann)が発見した公転周期14.7年の周期彗星です。
 2月ころに増光したそうですが,今は暗くなっています。
●アサシン彗星(C/2018N2 ASASSN)(エイサスエスエヌ彗星という表記もあります)
 2018年7月11日,ASASSN(All-Sky Automated Survey for Supernovae)プロジェクトによって,南アメリカのセロロ・トロロ(Cerro Tololo)天文台にあるカシアス(Cassius)14センチメートルの探査ユニットで発見されたものです。
 ASASSNプロジェクトはオハイオ州立大学の天体検索プログラムで,北半球と南半球の両方に20個のロボット望遠鏡があります。望遠鏡といっても,ニコン(Nikon)の400ミリF2.8の望遠レンズに ProLine PL230 のCCDカメラをつけたものです。
 北極星近くにあるのですが,これからは暗くなって見ることが困難になります。
●パンスターズ彗星(C/2017T2 PanSTARRS)
 2017年10月2日,ハワイ・マウイ島のハレアカラにある1.8メートル Pan-STARRS1望遠鏡で写したCCDの画像から発見されたものです。
 明るくなるという前評判でしたが,8等星止まりというところです。しかし,北極星に近く最も見つけやすい彗星です。
●岩本彗星(C/2020A2 Iwamoto)
 アマチュア天文家の岩本雅之さんが今年の1月16日,自宅ベランダの400ミリの望遠鏡にカメラを取り付けて写した画像から発見したものです。
 14等星という予想より明るく11等星ほどまでになったようです。
●アトラス彗星(C/2019Y4 ATLAS)
 2019年12月28日にATLASサーベイによってハワイ・マウイ島のハレアカラに設置された望遠鏡 ATLAS-MLO で発見されたものです。
 現在は12等星ほどですが,これから5月にかけて太陽に接近して明るくなると期待されています。日本では5月の半ばころまで夕方の北から北西の空に見えます。

 ということで,満天の星空を堪能したハワイから帰国して,天気がよかった2月26日の夕刻,北の空が暗いいつもの山へ星見に出かけました。ハワイには望遠レンズを持っていかなかったので,こうした暗い彗星とは縁がありませんでした。
 現地に到着して慌てて望遠鏡を組み立て極軸を合わせて,西の空に見えている彗星から順番に写していきました。早くしないとどんどん沈んでいきます。
 まず,アトラス彗星(C/2019Y1)を写したのですが,低空で,かつ,空が明るく写りませんでした。次に,シュワスマン・ワハマン第1彗星をねらったのですが,写した位置を間違えました。ただ,うまくその位置を写すことができたとしても,写ったかどうかわかりません。
 気を取り直して,その次に,アサシン彗星を写しました。それが今日の3番目の写真です。かろうじて存在が確認できます。さらに,岩本彗星を写したのが4番目の写真です。この彗星もかろうじて存在が確認できますが,前回家の近くで写したときよりだめでした。やはり,夕刻の低い空に彗星を写すのは大変です。
 さて,いよいよ控えるは期待のふたつの彗星です。
 まずはパンスターズ彗星です。それが5番目の写真ですが,この彗星は他の彗星に比べれば明るく,今回もまた,尾をひいたかわいい姿を捉えることができました。この彗星はもっと明るくなるという予想だったので明るくならず残念ですが,このくらいの姿もまたかわいくていいものです。
 そして,最後がアトラス彗星(C/2019 Y4 ATLAS)です。おおくま座のβ星,つまり,北斗七星の柄杓の2番目の星「メラク」(Merak)の近くにあるので場所は簡単に特定できるのですが,13等星くらいなので写るかどうか,というのが問題でした。それに加えて,この彗星が M97惑星状星雲(ふくろう星雲),M108銀河 と同じ画角に入るということを写すまで知らなかったので,一緒に写せることにびっくりしました。これなら何としてでも写そうという気になってきました。この彗星を写すのは天頂に近いので最後にしていたのですが,なんと,写しだしたら曇ってきました。なんども雲に邪魔されましたが,これを写さなければ帰るに帰れないと祈っていたら雲が切れて,なんとかモノにできました。それが今日の1番目の写真です。
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 このようにして,この晩もまた,美しい星空を堪能することができました。
 日本の濁った汚い夜空は,星野写真を写すには向いていなくて望遠鏡を使って暗い彗星の写真を写すことが達成感があり,一番ストレスのない楽しみ方だなあといつも思います。

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