●世界第2位を誇る人工建造物●
パイオニアパークを出た。
次に私は,フェアバンクスから北へ16キロメートル北上したところで,アラスカ横断原油パイプライン(Trans-Alaska Pipeline)を見ることができるというので行ってみることにした。
ノース・スロープ(North Slope)はアラスカ州北部,つまり北極海に面した油田地帯である。ここはブルックス山脈と北極海にはさまれて東西にのびるツンドラ地帯にあり,コールビル川が北流している。
このノース・スロープにあるプルドーベイ油田(Prudhoe Bay Oil Field)がアメリカ最大の油田で,アンカレッジから650マイル(1,000キロメートル),北極点から1,200マイル(2,000キロメートル)のところにある。この地は1960年代に石油探査が開始され,1968年にARCOが石油を発見,1977年に採掘がはじまった。
原始埋蔵量は推定250億バレルで残存埋蔵量は20億バレルと見込まれる。
石油の発見により,冬場には凍ってしまう北極海から南部のアンカレッジ付近まで原油を輸送するパイプラインが必要となった。そこで作られたのが,この全長 1,300キロメートルに達するアラスカ縦断原油パイプラインである。
人工の建造物としては万里の長城に次ぐ世界第2位の長さを誇るこのパイプラインは北部のプルドーベイ油田と南部の港バルディーズを結んでいる。1974年に工事が始まり1977年に完成,建設費総額 77億ドルであった。
パイプラインには11のポンプステーションがあり,それぞれが4台のポンプで構成されている。電動式のポンプはディーゼル若しくは天然ガスで発電された電気で作動する。計画時には12のポンプステーションが予定されていたが実際に建設されたのは11であった。
一部の地域では永久凍土上にパイプラインが敷設されており,パイプラインの熱で永久凍土が融けないように杭にはヒートパイプが採用されている。地中の温度が大気温より高い場合は伝導して地中の温度を放熱器から放熱することにより地中の温度を冷やし,大気の温度の方が地中の温度よりも高い場合には熱を遮断する構造になっていて,永久凍土が溶け出すことを防ぐ構造になっている。
パイプの直径は48インチ(1,219ミリメートル)ですべて日本製(当時の新日本製鐵)。厳しい温度変化による金属の伸び縮みを考慮した結果,ジグザグに配置されている。パイプラインは生態系保護,永久凍土の保護のために地表から浮かして通っている。
1日の最大輸送能力は200万バーレルである。
ダウンタウンの東を北に走るSteese Hwy 6 に乗って車を走らせていくと右手にまず広い駐車場が見えた。そこには他に1台ほどの車が停まっていた。私もそこに車を停めて外に出てみた。その先に,延々と続くパイプラインを見ることができたが,ただそれだけのものであった。ガイドブックにはビジターセンターがオープンし,土産物屋もあると書かれてあったが,そんなものはどこになかった。
しかし,この日本製のパイプラインのなかをアラスカの北部から南部に石油が流れていると思うと,なにか不思議な気がした。人間はえらいものをつくる生き物だ。