しない・させない・させられない

Dans la vie on ne regrette que ce qu'on n'a pas fait.

USA50州・MLB30球場を制覇し,南天・皆既日食・オーロラの3大願望を達成した不良老人の日記

タグ:グスタフ・マーラー

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 グスタフ・マーラ―の交響曲第3番は,演奏時間が約100分もあり,当時,世界最長の交響曲といわれました。私がこの曲をはじめて知ったときは,確か「夏の朝の夢」といった表題があったようですが,現在は聞きません。これだけ長いのに,もともとはもう1楽章あって,割愛された楽章は次の交響曲第4番の第4楽章となったそうです。
 はじめに第2楽章から第6楽章までが作曲されて,最後に第1楽章が書き上げられたようです。

 この第1楽章は,高貴な雰囲気でもなく,特に美しいわけでもなく,私は,ちょっと長すぎるのでは,と思います。表現は悪いのですが「だらだらと」続いてしまうので,ちょっとうんざりします。そして,これだけ長いと,ぬるい温泉につかりすぎた感じになってしまい,それを冷ますのにずいぶんと手間がかかるのです。逆にいえば,先に作曲された第2楽章から第6楽章まで,というか,もともとは第7楽章までの前座を担うには,これだけの長さが必要になってしまったのかもしれません。
 井上道義さんは,第1楽章だけでお疲れになって,この楽章が終了したところで,座り込んでしまい,最後まで演奏できるのかな? と私は心配になりました。
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 口に水を含みなんとか立ち上がったマエストロが,だれかが思わず拍手をしたのを制して,静かに第2楽章がはじまりました。
 交響曲第3番は,第4楽章と第6楽章が聴かせどころだと私は思うのですが,第4楽章をはじめの見せ場にするには,第2楽章と第3楽章が必要なのでしょう。どちらかなくてもいいかな,と考えても,第2楽章の次に第4楽章があったら変だし,第2楽章を省略して第3楽章では,やはり,うまくないです。先に書いたように,長大な第1楽章の熱さましをするには,第2楽章と第3楽章が必要になってしまうのです。
 いずれにしても,マーラーは,このあたり,音楽をどこにもって行けばいいのか迷いさまよっている感じがして,この交響曲で一体何がいいたいのかな,何を表現したかったかな,という疑問が,私には起こります。

 しかし,そんな疑問は第4楽章で吹き飛びます。交響曲第3番は,第4楽章からが魅力的です。ここでは
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 O Mensch! Gib Acht!
 Was spricht die tiefe Mitternacht?
 „Ich schlief, ich schlief –,
 Aus tiefem Traum bin ich erwacht: –
 Die Welt ist tief,
 Und tiefer als der Tag gedacht.
 Tief ist ihr Weh –,
 Lust – tiefer noch als Herzeleid:
 Weh spricht: Vergeh!
 Doch alle Lust will Ewigkeit –,
 – will tiefe, tiefe Ewigkeit!“
  ・・
 おお人間よ! 注意して聴け!
 深い真夜中は何を語っているのか?
 「私は眠っていた
 深い夢から私は目覚めた
 世界は深い
 昼間が思っていたよりも深い
 世界の苦悩は深い
 快楽-それは心の苦悩よりもさらに深い
 苦悩は言った。滅びよ!と
 だが,すべての快楽は永遠を欲する
 深い永遠を欲するのだ!」
  ・・・・・・
と,アルトが歌うのですが,これは,ニーチェ(Friedrich Nietzsche)の「ツァラトゥストラはこう語った」(Also sprach Zarathustra)の第4部第19章「酔歌」の第12節「ツァラトゥストラの輪唱」から採られたものです。
 これを歌った林眞暎さんが本当にすばらしかった!

 そして,第5楽章ですが,ここでは一転して,児童合唱が鐘の音を模した「ビム・バム」を繰り返し,アルトと女声合唱が
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 Es sungen drei Engel einen süßen Gesang,
 Mit Freuden es selig in dem Himmel klang,
 Sie jauchzten fröhlich auch dabei,
 Daß Petrus sei von Sünden frei.
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 3人の天使が美しい歌をうたい
 その声は幸福に満ちて天上に響き渡り
 天使たちは愉しげに歓喜して叫んだ
 ペテロの罪は晴れました!
  ・・・・・・
と歌うという,ユニークなものです。この歌詞は,交響曲第4番につながっていきます。
 このように,交響曲第3番は,交響曲第2番で「復活」しちゃったのを第4楽章で終結させて,第5楽章で交響曲第4番で天国に昇天させるための橋渡しとしているのでしょう。そのために子供たちと女性の声が必要なのです。男性の声があると,天国よりも地獄,ショスタコービッチの「バビ・ヤール」になってしまいます。

 いよいよ,最後の第6楽章。
 交響曲第3番は,この第6楽章ですべてが救われます。Langsam. Ruhevoll. Empfunden. (ゆるやかに安らぎに満ちて感情を込めて)とありますが,実際は「アダージョ」。
 この楽章の美しさと神々しさは,筆舌に尽くしがたいものです。そして,マーラーの音楽の数々のすばらしい「アダージョ」のなかでも,第3番の第6楽章は癒しの「アダージョ」であり,真骨頂です。井上道義さんは,こうしたメロディアスな楽曲を指揮すると,本当にいい。

 今回はじめての,すみだトリフォニーホールと新日本フィルハーモニー交響楽団でした。外に出ると,スカイツリーが迫ってきます。このホールは,規模的にもホールの形状もウィーンの楽友協会に似ていて,同じような響きがしました。ただし,それがホールのせいなのか,オーケストラのせいなのか,私の席のせいなのか,専門家でないのでわかりませんが,今回の演奏では,弦と管のバランスがちょっと悪かったです。というか,管が昭和時代のオーケストラのようでした。私は,管をもう少し抑えたほうがいいように感じました。
 何はともあれ,美しかった第6楽章で,長い長い交響曲のすべてが報いられました。そして,いつものように,今回もまた,井上道義さんのスタンディングオベーションがいつまでもいつまでも続きました。

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 名古屋フィルハーモニー交響楽団とのブルックナーの興奮も冷めやらぬ2024年3月9日,今度は,すみだ平和祈念音楽祭2024として,すみだトリフォニーホール大ホールで,アルトの林眞暎(まえ)さんを迎えて,井上道義さんが新日本フィルハーモニー交響楽団を指揮する,マーラーの交響曲第3番を聴いてきました。林眞暎さんは,2023年11月18日に,同じく井上道義さんが指揮をした読売日本交響楽団の演奏会でマーラーの交響曲第2番「復活」ですばらしい歌声を聴かせた人です。
 私は,新日本フィルハーモニー交響楽団も,すみだトリフォニーホールもはじめてでした。このような演奏会がなければ,そのような機会はなかったことでしょう。墨田区というととても遠い印象ですが,すみだトリフォニーホールはJR錦糸町にあって,東京駅からほんのわずかな距離で,私がよく行くNHKホールのある渋谷区とはまったく異なる,下町情溢れる場所でした。また,新日本フィルハーモニー交響楽団は,1972年に,小澤征爾さんと山本直純さんの掛け声の下,楽員による自主運営のオーケストラとして創立したもので,ここでもまた,小澤征爾さんの偉業がひとつ,世に残りました。私は,そのころのいきさつをよく知っています。そうした経緯もあって,当時,山本直純さんが司会をする「オーケストラがやってきた」というクラシック音楽啓蒙のすぐれた番組があって,新日本フィルハーモニー交響楽団が出演していたのですが,このごろは,テレビでは見る機会もめっきりなくなりました。

 今回の曲目であるマーラーの交響曲第3番,私はよく聴くのですが,生演奏を聴いたのは,どうやらはじめてのことでした。この交響曲は,第6楽章まであり,というか,もともとは第7楽章まで構想されていたということですが,第1楽章だけでも30分と,通常の交響曲ほどの長さがあるから,全体はものすごく長く,しかも,途中に女性のソロがあり,その後で合唱が入りというように,この時期のマーラーがやりたかったことを全部入れ込んだ,そんな感じがする大曲です。しかも,第1楽章,そして,急にけだるくなる,でも,優美な第2楽章,第3楽章,そして,アルトが歌う第4楽章を,子供たちがステージ上で何もせず座り続けるのも大変で,一体どうやって演出するのか? という問題もあり,演奏会で実演するのは,大変な曲に思っていました。
 しかし,私には,その大きさとは反対に,地味で,というか,軽く,第2番「復活」の思い入れのある深いテーマの交響曲や,天国の快楽を愉快に奏でる第4番の間にあって,その存在感が希薄なのです。交響曲第2番で,「蘇らせてしまった」マーラーが,このあと,一体何を奏でたいのだろうか? と聴きながら思ってしまうわけです。第2番を彷彿とさせる第4楽章が異質ですが,全体として,この曲は,次に何がくるか,その展開が予測でき,しかも,予測通りに展開するので,気分がよく,聴いていてさわやかで疲れないのです。

 今回は,第3楽章の終わりのところで,林眞暎さんと子供たちが音もなくステージに姿を現すという粋な演出で,一体どうやって演出するのか? という私の謎は解けました。
 感想は次回書きますが,私が最も印象に残ったのは,最終楽章である第6楽章の美しかったこと。この曲を作曲のは1895年から1896年なので,マーラーが35歳のときと,まだ若いのですが,私は,この楽章が,交響曲第5番の有名な第4楽章アダージェットや最後の完成作となった交響曲第9番の第4楽章につながるものだと思いました。静謐感に満ちた美しい楽章こそ,マーラーの,最も優れたものだと,私は,いつも思います。そして,引き込まれてしまうのです。

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 2016年,アメリカ合衆国50州制覇を遂げるまで,ほぼ,アメリカ以外には興味がなかった私は,その呪縛が解けて以来,まず目を向けたのが,南半球の星空とハワイでした。さらに,NHKEテレで放送された語学番組「旅するドイツ語」の舞台となったオーストリア・ウィーンを見て,急に行きたくなったヨーロッパでした。
 そこで,2017年から2019年にかけて,アメリカ本土に加えて,南半球のオーストラリアとニュージーランド,ヨーロッパのオーストリア,フィンランド,エストニア,そして,ハワイのマウイ島,モロカイ島など,何かにとりつかれたように,足を運びました。
 コロナ禍の今にして,この3年間で,私は,行きたいと思っていた海外の場所のそのほとんどに行くことができたのは,まさに,奇跡でした。
 それらの場所の多くは,また,行く機会があれば,ぜひ行ってみたいと思うところでしたが,その中でも,とりわけ奥が深い,魅力のある場所はオーストリアでした。

 旅行とともに,私が大好きなのは,クラシック音楽を聴くことです。モーツアルト,ベートーヴェンなどの古典派の作曲家はもちろんですが,私がよく接する曲は,ブルックナー,ブラームスなどの作曲家の作品です。以前,ブルックナーとマーラーが同じように語られたことがあって,私も,その影響で,マーラーの音楽を好んで聴いていたことがあるのですが,墨絵のようなブルックナーの音楽に比べて,色彩豊かなマーラーの音楽からは,しばらく遠ざかっていました。
 2018年にはじめてオーストリアのウィーンに出かけて,マーラーの住んだ家や,墓,また,マーラーが指揮者として活躍していたウィーン国立歌劇場などに訪れて以来,再び,マーラーに対する興味が戻りました。このころはまだ,クリムト,シーラなどの美術も知らなかったし,学生時代に世界史をほとんど習わなかった私は,ハプスブルグ家もわかりませんでした。それが,そうしたことに触れ,また,世紀末ウィーンという,それまでは言葉くらいしかしらなかったこの歴史を知るにつけ,この地の文化の奥深さに感動し,それとともに,マーラーの音楽が,そうした時代すべてを反映していることに驚くとともに,そのすばらしさを再発見したのです。

 そんな折に知ったのが,岩波現代文庫「マーラーと世紀末ウィーン」という本でした。
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 マーラーの作品の真の新しさやおもしろさは,世紀末ウィーンの文化史全体に目を広げてはじめて明らかになる。著者は同時代人クリムト,ワーグナー,フロイト,アドラーらの活動をも視野に入れ,彼らの夢と現実のありようを描きだす。また,現在,彼の音楽のどのような側面が注目され,それが現代文化のいかなる状況を表現しているのかを問う。
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という内容のこの本は,私が知りたかったことが網羅されたすばらしいものでした。
 この本はすでに絶版となっていますが,幸運にも私は,新古本を手に入れることができました。
 読んでいると,この時代の文化が私のこころの中に溶け込んでくるようで,本当に幸せになれます。ウィーンで,音楽だけでなく,多くの美術品なども見てきて本当によかったと思うし,マーラーの音楽の本当の意味もやっとわかりかけてきたように感じます。
 この本は,いつも持ち歩いていて,時間があれば,手に取ります。そうすることで,少しでも,この時代のかおりを味わうことができる気がするからです。

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