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2024年5月12日,NHK交響楽団の定期公演を聴いた次の日,東京交響楽団第720回定期演奏会を聴きに,サントリーホールに行きました。せっかく東京に行ったので,今回はコンサートのはしごです。
指揮はジョナサン・ノットさん(Jonathan Nott)で,曲目は, 武満徹の「鳥は星形の庭に降りる」(A Flock Descends into the Pentagonal Garden), ベルク(Alban Maria Johannes Berg)の演奏会用アリア「ぶどう酒」(Der Wein),そして, マーラーの交響曲「大地の歌」(Das Lied von der Erde)でした。
ソプラノは髙橋絵理さん,メゾソプラノはドロティア・ラングさん(Dorottya Láng),テノールはベンヤミン・ブルンスさん(Benjamin Bruns)でした。
すでに書いたように,私は,2020年11月15日,ジョナサン・ノット指揮,東京交響楽団のコンサートを聴きに行く予定でした。おもな曲目は,ブルックナーの交響曲第6番でした。NHKEテレの「クラシック音楽館」で聴いたジョナサン・ノット指揮・東京交響楽団のブルックナーの交響曲第9番が忘れられず,チケットを購入したのはその年の1月で,とても楽しみにしていました。
しかし,コロナ禍で,ジョナサン・ノットさんの来日が不可能となり,広上淳一指揮でベートヴェンの序曲「命名祝日」と交響曲第4番に変更となりました。フランス料理を楽しみに食べにいったら,天丼に変更になったようなものでした。
時節柄,しかたがなかったとはいえ,がっかりでした。もし,はじめからこのプログラムだった行くこともなかったのに,と思いました。熱が冷めて,それ以降,東京交響楽団の演奏会に行くこともなくなりました。
それからしばらくして,今回,ブルックナーではなく,マーラーではありましたが,私の好きな交響曲「大地の歌」でもあり,また,ジョナサン・ノットさんの指揮ということもあり,東京交響楽団の定期演奏会に足を運ぶことにしたのです。
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1962年イギリス生まれのマエストロ・ジョナサン・ノットは,ドイツのフランクフルト歌劇場とヴィースバーデン・ヘッセン州立劇場で指揮者としてのキャリアをスタートし,ルツェルン交響楽団首席指揮者兼ルツェルン劇場音楽監督,アンサンブル・アンテルコンタンポランの音楽監督,ドイツ・バンベルク交響楽団の首席指揮者を経て,スイス・ロマンド管弦楽団の音楽監督を務めています。
東京交響楽団では,2014年から音楽監督を務めています。
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音楽監督とはいえ,これだけ頻繁に来日して指揮をすることに敬服するとともに,東京京響楽団は,この指揮者の魅力で支えられているのだろう,と思いました。
武満徹の代表作のひとつ「鳥は星形の庭に降りる」はこれまで何度も聴いたことがありました。
1977年に書かれた管弦楽作品で,サンフランシスコ交響楽団の委嘱で作曲されたものです。パリのポンピドゥー・センターで後頭部を星形に刈り上げたマルセル・デュシャン(Marcel Duchamp)を写真家のマン・レイ(Man Ray)が撮影した写真を見て喚起され,鳥の群れが五角形の庭に舞い降りる夢を見たという逸話が残る作品です。
星形というのは,幾何学的にも最も美しいシンメトリーです。正5角形の内角は108度,そして,対角線を結ぶと星形になって,そこには多くの二等辺三角形が作られるのですが,武満徹は,そこにインスピレーションを得て,音楽で表現しようとしたのでしょう。美しい曲です。
1930年に初演されたベルグの演奏会用アリア「ぶどう酒」ははじめて聴きました。
詩はシャルル・ボードレール(Charles-Pierre Baudelaire)の詩集「悪の華」(Les Fleurs du mal)をドイツの詩人シュテファン・ゲオルゲ(Stefan Anton George)がドイツ語訳したものから取られています。ぶどう酒は,シャルル・ボードレールの人生そのものの一部をなしていました。ぶどう酒は確かに酒精ですが,それは人に生きる力をもたらす特別の飲み物,「命の水」(eau de vie)。この詩は,シャルル・ボードレールの熱い気持ちが込められているのです。
ということで,ぶどう酒は単なるお酒ではなく,もっと官能的な飲み物だとシャルル・ボードレールは自分に酔っているわけです。大人の歌です。
そして,最後がマーラーの交響曲「大地の歌」。
この曲については,すでに書いているので,ここでは触れません。それより,私がこの曲に浸れるかどうかは,私自身の精神状態に寄るところが多いわけで,はたして今回はどうだったでしょうか?
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曲の途中で,1階席中央にいた観客のひとりが具合が悪くなって,係員がその処理をしていて,若干ざわついたのですが,ステージ上では何事もないように,集中して曲が続きました。そして,そんなハプニングをものともせず,会場につめかけた観客も次第にのめりこんでいきました。
メゾソプラノがすばらしく,最後は,圧巻の終曲を迎えました。至福な時間でした。
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Die liebe Erde allüberall Blüht auf im Lenz, Ewig... ewig...
春になれば花は咲き新たな緑は萌えてくる,永遠に…永遠に…
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私には,前の日にNHK交響楽団の定期公演で聴いたレスピーギより,マーラーのほうがいいです。そして,マーラーの交響曲で最高傑作だと思っている「大地の歌」だったことが最高でした。
こうして,東京京楽団の演奏会で2020年に味わうことになってしまった期待外れの天丼が,やっと,念願の極上のフランス料理に代わりました。
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「しない・させない・させられない」とは
「Dans la vie on ne regrette que ce qu'on n'a pas fait.」とは
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