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2024年6月8日,NHK交響楽団2024年6月Aプログラムを聴きました。
毎年,6月の定期公演は,私にはなじみのない曲であることが多いのですが,今回は,とりわけ,全曲スクリャービンと,私にはまったく縁遠いもので,すべてはじめて聴く曲でした。スクリャービン(Aleksandr Nikolaevich Skryabin)は,1872年に生まれ,1915年に亡くなったロシアの作曲家です。
指揮・原田慶太楼さん,ピアノ・反田恭平さんと,今,注目されるコンビに加え,コンサートマスター・郷古簾さんという,若々しいメンバーで,これだけでうれしくなりました。
曲目は,「夢想」(Rêverie),ピアノ協奏曲,交響曲第2番でした。
「夢想」は,当初の題名が「前奏曲」。とても美しい曲で,さあ,これから楽しい音楽の夢の時間がはじまりますよ,という感じがしました。文字どおり,この演奏会の「前奏曲」になりました。
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ピアノ協奏曲は,ショパンの影響が濃厚に残る作品で,第1楽章は,短い導入のあと,メランコリックな旋律の第1主題,明るく甘い響きをもつ第2楽章が対位法的に旋律が絡み合う展開部を経て,再現部,そして,コーダと続きます。第2楽章は変奏曲。感傷を極めたかのような旋律の主題が,ピアノの細かいパッセージがセンチメンタルさを更に強調する第1変奏が第2変奏で前向きに一瞬動き出すものの,第3変奏で重厚なピアノが悩ましさを醸し出し,第4変奏では管弦楽が対位法的に絡み合い,最後に回帰した主題をピアノが装飾します。そして,第3楽章では,悲しくも力強い第1主題と祈りが上昇してゆくような第2主題が核になって,最後は,おもに第1主題が変奏されてクライマックスを迎えます。
やるせなく美しい第1楽章,ピアノの枠に収まりきれずに滴り落ちるようなロマンの薫りの第2楽章,オブラートで包まれたような柔和な第3楽章からなる,美しく甘い旋律に彩られたこの曲は甘い香りのする極上のピアノ協奏曲でした。「もっとも美しいピアノ協奏曲」といわれるように,本当に美しく,感動しました。
アンコールはグリーグ(Edvard Hagerup Grieg)の叙情小曲集から「トロルハウゲンの婚礼の日」(Wedding Day at Troldhaugen)でした。これがまたすばらしかった。
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交響曲第2番は1901年に完成した初期の集大成で,ワーグナーに熱狂していたスクリャービンでしたが,ここでは,更に一歩前へ進んで,リヒャルト・シュトラウスにも接近しているそうです。全5楽章で,第1楽章と第2楽章,第4楽章と第5楽章は,それぞれ切れ目なく続けて演奏されます。
第1楽章は,クラリネットが低い音域で奏する陰鬱な循環主題Ⅰと,ヴァイオリン,次いでフルートが独奏する明るい響きの循環主題Ⅱが全楽章を統べる主題となっていて,「悪魔的な詩」(Poeme Satanique)と称されるそうです。
第3楽章は,フルートとヴァイオリンの掛け合いが小気味よく美しく,ブラームスのピアノ協奏曲第2番のチェロの独奏を思い出しました。
スクリャービン自身は「作曲したときには気に入っていた曲ですが今となっては満足できません。終楽章が陳腐なもので」といい,いずれは終楽章を書き換えることも計画していたといわれますが,実現しませんでした。聞きやすい曲だという感想がみられますが,私は,第3楽章の美しく神秘的な曲が,最後にはただの平凡な曲になってしまったような気がして残念でした。
3部構成に集約されているという観点から,マーラーの交響曲第5番の構成法にもよく似ています。スクリャービンは,生涯に5曲の交響曲を書きましたが,次第に楽章数を絞っていく方向に向かい, 最終的には単1楽章構成にたどりつきます。
オールスクリャービンプログラムなんて,だれが聴きにくるのかな? 今日はガラガラだ,と思ったのですが,私の予想に反して,反田恭平さん効果なのか,満員札止めでした。私は,予習をして聴きにいったのですが,事前に思っていたよりもはるかに楽しく,久しぶりに,曲にのめりこみました。
いい演奏会でした。
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「しない・させない・させられない」とは
「Dans la vie on ne regrette que ce qu'on n'a pas fait.」とは
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