しない・させない・させられない

Dans la vie on ne regrette que ce qu'on n'a pas fait.

USA50州・MLB30球場を制覇し,南天・皆既日食・オーロラの3大願望を達成した不良老人の日記

タグ:トゥガン・ソヒエフ

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【Summary】
Shostakovich's Symphony No. 7, composed during WWII, reflects the terror and oppression of war rather than a simple anti-fascist theme. Its evocative structure and emotional depth resonate deeply amid current global tensions, offering a mix of darkness, absurdity, resignation, and hope.

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 以前,シャルル・デュトワさんがNHK交響楽団の音楽監督だったころに盛んにショスタコーヴィチの曲をとりあげていたので,今回のプログラムである交響曲第7番「レニングラード」も聴いたことがあるように思うのですが,私は,この曲を普段録音でも聴くことがないし,近年は演奏会でも取り上げられることが少ないから,はじめて聴くような気持ちでした。
 第2次世界大戦の異常な状況下で作曲,初演されたこの交響曲は,当時のソビエト連邦のレニングラードの開放を賛美するような内容ではありません。作曲以来,反ファシズム闘争の象徴になっていたのですが,歓迎されたわけでもなく,前衛主義が隆盛した冷戦時代になって,この作品の評価は急落しました。しかし,近年の世界情勢を受けてその真価が見直されているようです。
 ショスタコーヴィチはこう語っていました。
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 (第7番の意味は)もちろんファシズムさ。でも真の音楽は,決してある主題に文字通りに結び付けられることは出来ない。国家社会主義は唯一のファシズムの形態ではない。この音楽はあらゆる形のテロル,隷属,精神の束縛について語っているんだ。
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 第1楽章の提示部では,生命力に満ちた力強い第1主題「人間の主題」ののち,第2主題「平和な生活の主題」で極めて澄み渡った美しい主題が続きます。ところが,第2主題の高音のモチーフが現れて消えてゆくと,その静けさの中から,小太鼓のリズムが小さく小さく奏でられはじめ,やがて,象徴的になります。これが「戦争の主題」といわれる展開部ですが,まるで軍隊の行進で,ラヴェルの「ボレロ」のようです。「戦争の主題」は,小太鼓のリズムにのって楽器を変えながら12回繰り返されます。そして,小太鼓が途切れた時点で第1主題がもどってくると音楽が静かになり,再現部である戦争の犠牲者へのレクイエムの音楽が奏でられます。この楽章だけで30分あります。
 第2楽章は複合3部形式で,ショスタコーヴィチが「回想」と名づけたスケルツォです。こうした楽章での指揮者のトゥガン・ソヒエフさんは魅力的です。とにかくリズムがいい。
 第3楽章は美しい緩徐楽章で,ストラヴィンスキーの「詩篇交響曲」第3楽章に似たコラールとバッハの「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ」を様式化した主題が現れ,唐突にはじまる中間部で鞭打たれながら行進するような激しい音楽は,戦争の痛みを喚起します。そして,アタッカで途切れずに第4楽章に続きます。
 第4楽章では,冒頭で奏される2つの主題がサラバンド風のエピソードを挟みながら多彩に展開され,最後はバンダも加わって壮大な第1楽章の第1主題の循環を導き出します。このときの盛り上げ方は圧巻でした。

 交響曲第7番「レニングラード」非常に長いのですが,聴きどころ満載で,充実感のあふれる曲でした。現在のきな臭い社会情勢の中で,ショスタコービッチが聴かれているというのは,人々が,その音楽の現実を直視する暗さの中で,ある種の滑稽さとあきらめがあるのにもかかわらず,そこに希望を感じることができるからなのでしょうか。聴いている我々に生きるということの意味を改めて問い直してくれます。
 ソビエトの連邦の圧政の中で苦しみながら作曲を続けたショスタコービッチの音楽が,果たして,現在のロシアでも聴かれているのだろうか? と思ったことでした。それとともに,トゥガン・ソヒエフさんの母国への想いを感じて,悲しくなりました。はやく平和が訪れますように。
 貴重な時間でした。

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【Summary】
On January 18, 2025, I attended NHK Symphony Orchestra's 2028th subscription concert conducted by Tugan Sokhiev, featuring Shostakovich's Symphony No. 7 "Leningrad." The performance was extraordinary, with a full audience, reflecting Sokhiev's immense popularity. Notable incidents included a violinist appearing with crutches and a cello string breaking mid-performance.

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 2025年1月18日,トゥガン・ソヒエフ(Tugan Sokhiev)指揮のNHK交響楽団第2028回定期公演 Aプログラムを聴きました。-ショスタコーヴィチ没後50年-として,曲目は交響曲第7番「レニングラード」(Leningrad)でした。
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 第2次世界大戦のドイツ。ソビエト連邦戦で,レニングラード攻防戦は最大の激戦といわれます。
 1941年,ソビエト連邦への軍事進攻を開始したナチス・ドイツは,レニングラードを完全に包囲し,約900日後に解放されるまでに,64万人の餓死者を含む80万人の犠牲者が出たといわれます。
 この間に着手されたこの交響曲は,生まれ故郷であるレニングラードに捧(ささ)げられ,封鎖下のレニングラードでの演奏は,極限状態に置かれた市民に生きる勇気と尊厳を思い起こさせました。そして,この交響曲と作曲者は,全世界的な反ファシズム闘争の象徴になりました。
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 2022年,祖国ロシアのウクライナ侵攻に胸を痛めたトゥガン・ソヒエフさんは,モスクワ・ボリショイ劇場とトゥールーズ・キャピトル劇場管弦楽団の音楽監督を辞任しました。そして,その年のザルツブルク復活祭音楽祭へ出演し,ショスタコーヴィチが,「ナチズム」ではなく「ファシズム」への戦いに捧げると言明した「レニングラード」を,ドレスデン国立管弦楽団と演奏しました。
 この日の演奏会は演奏時間約73分のこの1曲でした。
 現在,ロシアの指揮者でナンバーワンと高く評価されているのが,トゥガン・ソヒエフさんで,実力と個性は他の指揮者を圧倒しています。
 私は,トゥガン・ソヒエフさんの指揮するのが大好きで,いつの楽しみにしているのですが,これまで聴いた中で最高だったのが,ベートーヴェンの交響曲第4番でした。今回の「レニングラード」をどのように指揮するか,とても興味がありました。

 ショスタコーヴィチの「レニングラード」でどれだけ観客が集まるのか? と思っていたのですが,会場は満員でした。ひとえに,トゥガン・ソヒエフさんの人気でしょう。トゥガン・ソヒエフさんはNHK交響楽団を愛しています。私は,首席指揮者はファビオ・ルイージさんよりトゥガン・ソヒエフさんのほうがいいように思うのですけれど…。
 内容は次回書くとして,この日は第2ヴァイオリンの島田慶子さんが松葉づえをつきながらステージに現れてびっくりしました。なんでも右足を痛めたとかいう話ですが,ご回復をお祈りします。また,演奏中,第3楽章の途中で,チェロ次席の西山健一さんの弦が切れてしまい,後ろで弾いていた奏者とチェロを交換,そして,後ろの奏者はステージから消えて,弦を張りなおしてくる,というハプニングが見られました。生演奏ならでは,なのですが,先日はビオラの弦が切れるのを見ましたが,チェロは私ははじめてでした。
 とにかくそんなことは超越して,この日の演奏会はすばらしいの一言でした。

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 2024年1月13日に行われたNHK交響楽団第2001回定期公演Aプログラムは,指揮がトゥガン・ソヒエフ(Tugan Sokhiev)さんで,前半の曲目がビゼー(シチェドリン編)のバレエ音楽「カルメン組曲」(Georges Bizet / Rodion Shchedrin Carmen Suite, ballet)後半の曲目がラヴェル(Maurice Ravel)の組曲「マ・メール・ロワ」(Ma mère l’Oye,suite(Mother Goose))とバレエ音楽「ラ・ヴァルス」( La valse, ballet)でした。
 私は,フランス音楽は苦手ですが,指揮者がお気に入りのトゥガン・ソヒエフさんということと,これらの曲目なら大丈夫,ということで,期待して聴きにいきました。

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 トゥガン・ソヒエフさんは1977年にロシアのウラジカフカス(Vladikavkaz)に生まれました。2022年,愛する母国がウクライナに侵攻したことに心を痛めて,ボリショイ劇場(the Bolshoi Theatre)とトゥールーズ・キャピトル劇場管弦楽団 (the Orchestre national du Capitole de Toulouse)の両方のポストを辞任したことで,男を上げ,以後も世界中から引く手あまたの指揮者です。
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 今回の曲目は,近代フランス音楽の「バレエ上演された」管弦楽曲の特集です。
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 バレエ音楽「カルメン組曲」は,ロシアの作曲家ロディオン・シチェドリン(Rodion Shchedrin)が妻でバレリーナのマイヤ・プリセツカヤ(Maya Plisetskaya)のためにバレエ版へ編曲したものです。この曲は,弦楽と4群の打楽器から成っていて「カルメン」の「運命の動機」を要所に出現させて,それがまあ,とても子気味いいのです。
 ちょっと長いかな,とは思いましたが,打楽器奏者が多くの打楽器を手を変え品を変え,弦楽奏者の後ろを動き回るのが愉快というか,大変というか。これは一見に値します。後日放送されるテレビでの映像が興味深いです。また,多くの打楽器がすべて弦楽器奏者の後ろ管楽器の前に配置されていたために,この曲の終了後のわずか20分の休憩でステージの配置を変更するのがかなり大変そうでした。
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 組曲「マ・メール・ロワ」はピアノ連弾組曲をバレエ化したものです。シャルル・ペロー(Charles Perrault)の「教訓付き昔話-マザーグース(マ・メール・ロワ) の話」から「眠りの森の美女」をバレエの筋書の中心に据えて,そこに前奏曲や間奏曲などを挿入し生まれた作品です。定期公演でたびたびこの曲は取り上げられていて,私は何度も聴いたことがあるのですが,この曲もまた,とても新鮮に聴こえました。
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 そして最後がロシア・バレエ団の興行主ディアギレフ(Sergei Diaghilev)から委嘱され作られた「ラ・ヴァルス」。
 「1855年ごろのウィーンの皇帝の宮殿」から「うずまく雲の切れ目からワルツを踊る男女たちの姿がときおり垣間見える。雲が少しずつ晴れてきて,輪を描きながら踊る人々であふれかえる広間が見える。次第に舞台は明るくなり,シャンデリアの光が燦然と煌めく」(Through rents in swirling clouds, couples are glimpsed waltzing. The clouds disperse little by little: one sees an immense hall peppered with a whirling crowd. The scene is gradually illuminated. The light of the chandeliers bursts forth at fortissimo.)という想定です。
 ラヴェルがワルツに見出していたのは,根源的な「生きる喜び」ということだそうで,トゥガン・ソヒエフさんは,うってつけの指揮者でした。

 トゥガン・ソヒエフさんの指揮は,音楽を体で表現するというもので,体の動きに従って魔法のようにオーケストラから音楽が紡ぎ出されるので,まさに,バレイ音楽には適任。第2000回の「一千人の交響曲」の次の第2001回がバレー音楽なんて粋な組み合わせでした。
 楽しかった。

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 2月のNHK交響楽団第1975回定期公演の指揮者は,トゥガン・ソヒエフ(Tugan Taymourazovitch Sokhiev)さんでした。
 トゥガン・ソヒエフさんは2008年にはじめてNHK交響楽団と共演し,定期公演に登場したのは2013年だそうです。私は,毎年大勢来る外国人指揮者のひとりだ,くらいに思っていたのですが,コロナ以前の定期公演でそのすばらしさに目覚め,ぜひまた聴きたいと思うようになりました。
 2020年,NHKホールとは違って狭くステージと座席が近いので目の前で見ることができるNHK交響楽団名古屋公演の指揮者だったので楽しみにしていたのですが,コロナ禍で中止となり,とても残念でした。また,その後も,たまたまコロナ禍のために来日が中止となるといった不運が続き,やっと今回,3年ぶりの来日がかないました。
 ロシアのウクライナ侵攻後,ロシアの音楽家はその対応で苦慮しているのですが,トゥガン・ソヒエフさんは,2008年から音楽監督を務めていたトゥールーズ・キャピトル管弦楽団の役職と2014年に就任したモスクワのボリショイ劇場の音楽監督兼首席指揮者の座を自らの意思で退いたということで,そのニュースには驚いたと共に,私の好感度はさらにアップしました。
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 トゥガン・ソヒエフさんは,1977年に旧ソビエト連邦・北オセチアのウラジカフカスで生まれ,サンクトペテルブルク音楽院でムーシンとテミルカーノフに指揮法を師事したのち,1999年にプロコフィエフ国際コンクール指揮部門で最高位を得て注目を集めました。マリインスキー劇場での仕事を通じてゲルギエフの薫陶も受けています。
 また,2012年から2016年までベルリン・ドイツ交響楽団で音楽監督兼首席指揮者を務めました。
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 Cプログラムだけの楽しみであるN響メンバーによる開演前の室内楽を楽しんだ後にはじまった今回の定期公演の曲目は,ラフマニノフの幻想曲「岩」と チャイコフスキーの交響曲第1番「冬の日の幻想」でした。
 幻想曲「岩」は,20歳のラフマニノフの管弦楽作品で,レールモントフの詩「切り立つ岩」の印象にもとづいて書かれたというものだそうですが,私ははじめて聴きました。NHK交響楽団の冬の定期公演では,毎年何がしかのラフマニノフの曲を聴くことができるということです。
 交響曲第1番「冬の日の幻想」は,第1楽章と第2楽章で広大なロシアの冬の情景を喚起し,独特なリズムをもつ軽快な舞曲を奏でる第3楽章,そして,明るく勇壮な第4楽章で,華やかに幕を閉じます。
 2作品とも,というか,ラフマニノフもチャイコフスキーも,聴いて楽しい曲であっても,私は,あえて聴きたいというものではありません。出てくればおいしくいただいても自分からは注文しない料理のようなものです。そこで,今回は,午後の暇つぶし,みたいな感じで聞いていましたが,なかなかよかったです。

 それよりも,注目に値したのは,トゥガン・ソヒエフさんの指揮ぶりでした。
 11月に聴いた井上道義さんが,体の内面から湧き上がる感性を表現した「踊る指揮者」であったのに対して,トゥガン・ソヒエフさんのほうは,音楽そのものを体で表現した「踊る指揮者」でした。ピアノになれば体をかがめ,フォルテになれば大きくし手を広げ,また,主題を奏でる楽器の方を向く,というように,音楽を聴かなくても指揮を見ているだけで曲が理解できるわけで,これがとてもおもしろかったのです。
 私は楽器が弾けないのでわからないのですが,演奏する側はとてもわかりやすく,かつ,楽しいのではないだろうか,と感じました。

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