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私は,あの,なまめかしさに抵抗があって,しばらくマーラーを聴かなかったのですが,再びそのすばらしさに目覚めたのは,ウィーンでマーラーの墓に行ったときでした。これまでに私は2度ウィーンを訪れたのですが,1度目はマーラーの墓が見たくて,そして,2度目は1度目に見損ねたアルマの墓が見たくて,2度ともマーラーの墓を詣でました。
マーラーの墓は,ウィーンの国立中央墓地に並ぶ数々の作曲家の墓とは違って,人里離れた地に埋葬されていて,その墓にわびしさと孤独を感じました。
マーラーの墓には,マーラーの名前しか刻まれていません。それは,生前
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Jeder, der mich sucht, wird wissen, wer ich war, und der Rest muss es nicht wissen.
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私の墓を訪ねて来る人は,私が何者だったか知っている。そうでない人に知って貰う必要はない。
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と言ったからだそうですが。
そして,墓の印象とともに,ウィーンでのマーラーの足跡が伴って,作曲された音楽にそれが重なり合って増幅され,やっと本当の魅力が理解できるようになったのです。若き日から,死に怯え,そして,向き合ってきた作曲家は,その地で,永遠の眠りについているのでした。
さて,第4楽章に続く第5楽章は,長大でソナタ形式をベースとしています。いよいよクライマックスです。
後半になると,金管のバンダが入ります。ステージから遠く離れたところから響くその音色は天上から聴こえてくるかのような錯覚に陥りました。そして,アルトが入ります。ラストは合唱が入り,壮大に盛り上がって曲を閉じるのです。
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Aufersteh'n, ja aufersteh'n, wirst du,
mein Staub, nach kurzer Ruh!
Unsterblich Leben! Unsterblich Leben wird, der dich rief, dir geben.
Wieder aufzublüh'n, wirst du gesät!
Der Herr der Ernte geht
und sammelt Garben
uns ein, die starben.
O glaube, Mein Herz, o glaube:
Es geht dir nichts verloren!
Dein ist, ja dein, was du gesehnt!
Dein, was du geliebt, was du gestritten!
O glaube: : Du wardst nicht umsonst geboren!
Hast nicht umsonst gelebt, gelitten!
Was entstanden ist, das muß vergehen!
Was vergangen, auferstehen!
Hör' auf zu beben!
Bereite dich zu leben!
O Schmerz! du Alldurchdringer!
Dir bin ich entrungen!
O Tod! du Allbezwinger!
Nun bist du bezwungen!
Mit Flügeln, die ich mir errungen,
in heißem Liebesstreben werd' ich entschweben
Zum Licht, zu dem kein Aug' gedrungen!
Mit Flügeln, die ich mir errungen,
werde ich entschweben!
Sterben werd' ich, um zu leben!
Aufersteh'n, ja aufersteh'n wirst du,
Mein Herz, in einem Nu!
Was du geschlagen,
zu Gott wird es dich tragen!
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よみがえる,そうだ,おまえはよみがえるだろう。
私の塵よ,短い憩いの後で,
おまえをよばれた方が不死の命を与えてくださるだろう。
おまえは種蒔かれ,ふたたび花咲く。
刈り入れの主は歩き,我ら死せる者らのわら束を拾い集める。
おお,信じるのだ,わが心よ,信じるのだ。
何ものもおまえから失われはしない!
おまえが憧れたものはおまえのものだ,おまえが愛したもの,争ったものはおまえのものだ!
おお,信じよ,おまえは空しく生まれたのではない!
空しく生き,苦しんだのではない!
生まれ出たものは,必ず滅びる。滅びたものは,必ずよみがえる!
震えおののくのをやめよ!
生きることに備えるがよい!
おお,あらゆるものに浸み渡る苦痛よ,私はおまえから身を離した!
おお,あらゆるものを征服する死よ,いまやおまえは征服された!
私が勝ち取った翼で愛への熱い欲求のうちに私は飛び去っていこう。
かつていかなる目も達したことのない光へと向かって!
私が勝ち取った翼で私は飛び去っていこう!
私は生きるために死のう!
よみがえる,そうだ,おまえはよみがえるだろう。
わが心よ,ただちに!
おまえが鼓動してきたものが
神のもとへとおまえを運んでいくだろう!
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それにしても,何という劇的な交響曲なのでしょう。まるで,本当に天に昇るように感じてしまいます。聴きにきて本当によかったと思ったことでした。
井上道義さんのブログには次のように書かれています。
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マーラーは本当の意味で指揮と作曲両方が出来た人。ブルックナーやブラームス,ベートーヴェン,ショスタコヴィッチたちとはそこが違う! 80分の長丁場,(私は)足腰が怪しくなりはじめて,終楽章のおわり数分は,深呼吸,深呼吸,深呼吸でした。
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ついこの前まで病気で入院をしていた井上道義さんが,80分の大曲を無事に終えられただけでも感服するのに,演奏はすばらしいものだったし,さらに,曲が終わっても帰らぬ聴衆に,楽団員の去ったステージに再び現れて,聴衆の前でおどけてみせたりして,本当にうれしそうで,安心しました。
まだまだこれから1年間,多くの演奏会が控えているので,どうか,お元気で,と祈らざるをえませんでした。
3月に,今度は,新日本フィルハーモニー交響楽団の演奏会でマーラーの交響曲第3番を指揮すると知って,早速チケットを買い求めました。私は第3番こそライブで聴いたことがないので,今から楽しみです。
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「しない・させない・させられない」とは
「Dans la vie on ne regrette que ce qu'on n'a pas fait.」とは