35 年ほど前に国道394号線を下北半島の東海岸に沿って走ったとき,周囲が木々に囲まれ,まったく海が見えす,しかも,砂利を積んだダンプカーが多く走っていました。北海道の松前半島の海岸線に沿って走ったときはずっと雄大な海が見えたので,この違いに失望しました。しかも,この地にある六ケ所村は,当時,核燃料の再処理工場が計画されており,ダンプカーによる砂利の投棄とともに,本州の北の果てはゴミ捨て場だと思いました。
それから私も歳をとり,いろいろなことがわかってきたので,今回は,冷静にこの地を走って,公開されている施設があれば見学し,下北半島の現在の姿を確認することにしました。
まず見つけたのが東通(ひがしどおり)原子力発電所のPR施設「トントゥビレッジ」でした。
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美しい自然に囲まれた青森県下北郡東通村の豊かな緑の森にあるのがトントゥビレッジです。
この森の中には様々な動植物のほかに豊かな自然の中にしか住まないといわれている妖精たちが暮らしています。
小さな妖精の名前は「トントゥ」。森に住む動植物を観察したりエネルギーのしくみを知ることができる妖精が仲良く暮らす村へようこそ!
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ということで,子供むけの施設でしたが,原子力発電のしくみについてわかりやすい展示と説明がありました。つまり,ここは原子力発電所のPR施設でした。展望台から原子力発電所は見えるけれど写してはいけないとか,かなり神経質でしたが,パンフレットには写真が載っているので,意味ないじゃん,と思いました。
私は,まったくの勉強不足で,東通原子力発電所は稼働しているものとばかり思っていたので,聞いてみると「???」という返事。つまり返事を濁していて,こりゃわけありだな,と思いました。
帰ってから調べてみると
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東通原子力発電所は東北電力と東京電力ホールディングスが敷地を保有しています。
1号機は2005年12月に営業運転を開始しましたが,2011年3月1日に起きた東北地方太平洋沖地震に伴う福島第一原子力発電所の事故の際は定期検査中でした。しかし,それ以降,再稼働することなく,今も停止した状態が続いてます。
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ということで,現在は稼働していません。
次が六ケ所原燃PRセンターでした。
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日本原燃株式会社の六ケ所原燃PRセンターでは,日本原燃株式会社が事業を行う原子燃料サイクル施設を中心に原子力や放射線について大きな模型やパネル,映像を使用してわかりやすくご案内しています。売店やレストランもあります。
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ということで,こちらは展望台から自由に写真を写してもよかったし,かなり大らかな施設でした。逆にいうと,稼働中の施設を維持するためには一般の人たちの理解が必要なので,かなり気を使っているわけです。
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核燃料の再処理,つまり「原子燃料サイクル」というのは,原子力発電所から運ばれてきた使用済の燃料を燃料貯蔵プールで冷却貯蔵し,3センチメートルから4センチメートルの小片に切断したのち溶解槽で硝酸により溶かし,リサイクルできるウランとプルトニウム,廃棄する核分裂生成物質(=廃棄物)に分離し,廃棄物をガラス固化し保管するというサイクルを行うことです。
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原子力発電で使われるウラン燃料は,97パーセントの核分裂しにくいウラン238と,3パーセントの核分裂しやすいウラン235からなります。
原子力発電の軽水炉で,3パーセントのウラン235は,1パーセントのウラン235と2パーセントの核分裂生成物質になります。また,97パーセントのウラン238からは,中性子を吸収することで1パーセントのプルトニウムと1パーセントの核分裂生成物質が出ます。
つまり,原子力発電によって,ウラン燃料は,95パーセントのウラン238,1パーセントのウラン235,1パーセントのプルトニウム,3パーセントの核分裂生成物質になるのです。これが使用済の燃料で,ここから,3パーセントの核分裂生成物質を取り除き,残りの97パーセントを再利用できるようにするのが原子燃料サイクル施設というわけです。
なお,1パーセントのプルトニウムは,新たなウランと混ぜ合わせて,MOX(=Mixed Oxide Fuel)燃料として利用します。これをプルサーマルといい,MOX燃料が使用できる軽水炉(=プルサーマル基)で利用します。現在,日本にはプルサーマル基は4基あります。
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問題はその3パーセントの核分裂生成物質で,これらは高レベル放射性廃棄物(ネプツニウム,アメリシウム,キュリウム,ストロンチウム,セシウム,テクネチウム,ルテニウム,ロジウム,パラジウム等)として残されています。日本では,その量は、最終処分する際の「ガラス固化体」に換算すると,既に約2万6,000本にも及びます。
高レベル放射性廃棄物は,当然,ゴミ捨て場に捨てるわけにもいきません。現在は,六ケ所村にある日本原燃株式会社の高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターと,東海村にある日本原子力研究開発機構の東海研究開発センターにあって,これらは,30年から50年間にわたり貯蔵・冷却したのち,最終的には300メートルより深い地下に「地層処分」し,「天然バリア」である地層と「人工バリア」である金属や粘土を組み合わせた「多重バリアシステム」によって,放射能の減衰する数万年以上をかけて放射性物質を人の生活環境から隔離することになります。つまり,地下深くに埋めるわけです。
しかし,高レベル放射性廃棄物を地下深くに埋める場所(=最終処分場)がすでに作られているのはフィンランドのみ,計画中なのがスウェーデン,フランス,アメリカで,日本では現在,北海道寿都(すっつ)町,神恵内(かもえない)村が候補となっていますが,最終処分場の場所すら決まっていないのです。
ちょうどお昼になったので,別棟にあったレストランで昼食をとりました。
なお,六ケ所村は,この施設のおかげで,ひとり当たりの村民所得が全国平均の5倍にも相当する,日本でも有数の豊かな自治体となっています。
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「しない・させない・させられない」とは
「Dans la vie on ne regrette que ce qu'on n'a pas fait.」とは
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