しない・させない・させられない

Dans la vie on ne regrette que ce qu'on n'a pas fait.

USA50州・MLB30球場を制覇し,南天・皆既日食・オーロラの3大願望を達成した不良老人の日記

タグ:交響曲第4番

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 東京には多くのオーケストラがあります。それぞれのオーケストラの特徴を知りたのですが,そうしたことが書かれたものがなかなかありません。探しても,ランキングとか,どこが上手だとか,そういういかにも日本らしい比較ばかりです。私が知りたいのは,そういう話ではなく,それぞれがどういったことをウリにしているのか,というようなことです。
 もし,私が東京に住んでいたら,どのオーケストラを贔屓にするか,きっと迷うことと思います。定期会員のよさは,毎回,苦労してチケットを買わなくていいということなので,どこかのオーケストラの定期会員になるだろうけれど,その選択は,オーケストラが上手,下手とかはさておき,どの会場が便利であるかとか,プログラムが自分好みであるかとか,聴いたあとで満足できるか,そういうことで決めるだろうと思います。

 さて,2023年9月27日,豊田市のコンサートホールで,東京都交響楽団の演奏会があるというので,チケットを購入しました。行くことにした理由は,まずは,プログラムがブラームスのヴァイオリン協奏曲と交響曲第4番という私の大好きな曲目だったからです。ふたつ目は,ヴァイオリン協奏曲を演奏するのが,服部百音さんだったことです。そして,最後に,私が豊田市のコンサートホールの友の会の会員で,優先的にチケットが購入できることでした。
 指揮者はオランダ人のローレンス・レネスさん(Lawrence Renes)という人でしたが,私はよく知りませんでしたが,なかなかすばらしい指揮者でした。
 数年前に一度,東京で東京都交響楽団のコンサートを聴いたことがあります。以前,NHK交響楽団に在籍していたビオラの店村眞積さんとか,コントラバスの池松宏さんが首席で在籍していて,のびのびと演奏していたのが好印として残っています。たえず,テレビカメラの目にさらされているよりも,このほうがいいのだろうと,私は思いました。

 服部百音さんは,難しい曲を選ぶことが多く,それがストイックさにつながっているだろうと思うのですが,そうした無理がたたったのかどうか,体調を崩してしまい,しばらく入院していたので,とて心配しました。そして,ずいぶんとやせてしまいました。何かにつかれたようなストイックさから卒業して,力を抜いて演奏が楽しめるようになったとき,服部百音さんは,もう一段高みに達することができるだろうと,私は思っています。
 前回私が聞いたのは,名古屋フィルハーモニー交響楽団の定期公演でバルトークのヴァイオリン協奏曲第2番という,これまで聴いたこともない難曲を演奏する姿でしたが,今回は,ブラームスという,非常にポピュラーな曲をだったので,より楽しみにしていました。考えてみれば,私は,ブラームスのピアノ協奏曲は何度もライブで聴いたことがあるのですが,ヴァイオリン協奏曲はほとんどライブで聴いたことがありません。長くてむずかしいから,らしいです。

 今回の演奏会では,服部百音さんの弾くブラームスは,やはり彼女らしく,力強く,躍動感があって,時折,指揮者と対決するような感じでした。また,交響曲第4番,これがまたとてもよかったです。
 ちなみに,アンコール曲は,ヴァオリン協奏曲のあとがクライスラーの「レチタティーボとスケルツォ」からスケルツォ,交響曲第4番のあとがブラームスの「ハンガリー舞曲」第1番でした。
 私は専門家でないので,演奏のよし悪しなんて技術的にはまったくわからないのですが,とにかく,聴いていて元気になれるものがいいと,このごろ思います。もう,この歳になると,何の憂いもなく,自分が楽しいとおもうことだけが,耳に入り目で見ることができればそれでいいのですが,そんな私でも,これはいい演奏だなあ,とこころから思いました。これほどすばらしい演奏会をひさびさに聴きました。
 また,今回の演奏会に限らず,他の演奏会のプログラムを見ても,東京都交響楽団は,私の聴きたくなる曲ばかりなので,もし,東京に住んでいたら定期会員になってもいいなあ,とも思いました。
 平日の夜,名店で,極上の食事を味わうような,こんな演奏家を楽しむことができたのは,この上なく幸せなことでした。

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 私は,20代のころ,マーラーの交響曲が大好きでした。
 実際には,曲が長いということ以外には,あまり共通点はないのですが,当時はブルックナーとマーラーは対比させて語られていました。私も,こうした対比に影響されて,ブルックナーとマーラーをこよなく愛聴していたのですが,ブルックナーの墨絵のような落着き,自然の風の音に比べて,マーラーの交響曲の色彩的な音色に少しうんざりしてしばらく聴かなくなりました。
 R・シュトラウスもそうですが,私は,オーケストラが鳴り響く音楽というのがどうも苦手です。
 歳をかさね,今は,R・シュトラウスの「最後の4つの歌」と共に,マーラーの交響曲は,第4番,「大地の歌」そして,第9番に魅力を感じます。これらの音楽には,東洋的な無常観と厭世観、そして,別離という共通点があります。

 マーラーの最高傑作といわれる交響曲「大地の歌」は,2003年11月7日に行われたNHK交響楽団第1499回定期公演の演奏が印象に残っています。このときの指揮者は広上淳一さんで,私は,ライブで聴いて感動した思い出があります。
 彼は,この演奏を最後に,しばらく,マーラーから遠ざかっていました。
 2014年5月28日のNHK交響楽団第1783回定期公演,とうとう,広上淳一さんは第4番の演奏で再びマーラーに帰ってきました。この交響曲は,歌詞に「少年の魔法の角笛」を用いていることから、同様の歌詞を持つ交響曲第2番、交響曲第3番とともに、「角笛三部作」としても語られます。また、「大いなる喜びへの賛歌」という標題でよばれることもあります。

 マーラーの交響曲の中で最も親しみやすいものであると思いますが,曲全体に横たわる不気味さが,また,この曲の魅力でもあります。
 私は,このコンサートをFMのライブ中継で聴いたのですが,メリハリの利いた,そして,聴かせどころをしっかりと押さえた演奏に引き込まれました。そして,第4楽章でうたうソプラノのローザ・フェオラさんが,また,絶品でした。
 曲の最後はテンポをゆるめて,詩の原題である「天国にはバイオリンがいっぱい」という天上の音楽の描写となって静かに消えていくのですが,「天上的」とは考えにくい重苦しいハープの爪弾きとコントラバスの最低音だけが残るのです。
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 天国のバイオリンとは,実は,死神のバイオリンではないのか
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 これは,機関誌「フィルハーモニー」に村井翔さんが書かれていたことばです。
 この日の観客は,この曲の最後に幻惑されてしまったのか,曲が終わってもしばらくの間,心地のよい沈黙が続き,やがて,惜しみない拍手がいつまでも続くのでした。
 やはり,こうした曲の最後は,こうでなければいけません。この沈黙が,この日の演奏の価値をさらに高めたのでした。

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