朝日杯将棋オープン戦の名古屋対局2日目。私は2日ともS席のチケットが予約できたので,連日の観戦でした。
今日は昨日と同じ2列目だったのですが,昨日と違って今日は左から12番目だったので先手番の棋士の表情がよく見える席でした。1列目は主催者様のお席のようで,1列目の真ん中に中部電力の社長さんがお座りになっておられました。
午前の1回戦は指定席のある広いほうの対局場が藤井聡太四段対澤田真吾六段戦,自由席の狭いほうの対局場が佐藤天彦名人対永瀬拓七段戦で,この勝者同士が午後の準々決勝で対戦します。
そこで,1回戦で藤井四段が勝ち進むと,午後もまた観戦できるというわけで,理想としては,午前に勝って午後に佐藤名人と対局をする,ということだったのですが,そんなうまくいくのかいな? と思っていました。
が,そうなりました。
相変わらず,私は運がいい男です。
まず1回戦です。
現われた藤井四段と澤田六段は澤田六段が先手で,当然昨日の羽生竜王のような堂々としたオーラ,という感じではなくて,若者らしい感じで,一手目から考えることもなく,どんどんと手が進みました。
昨日との違いは報道陣で,昨日は主催新聞や囲碁・将棋チャンネル,そして,AmebaTVくらいのものだったのですが,今日は,様々な放送局をはじめ,地元紙誌やらスポーツ紙とものすごい数でした。
藤井四段はおよそ中学生らしくないのですが,足元を見るとスニーカーだったのが,まあ,中学生らしいというか,ほほえましい感じでした。
局面は角換わりになりました。澤田六段が居玉で攻めてきたので藤井四段が有位だと思っていたのですが,澤田六段の2二歩という緩手1手のスキに藤井四段があっという間に攻め潰しての完勝でした。
藤井四段の将棋は昨日の羽生竜王の将棋とは違って主体性があり,若者らしく積極的でその対比が面白いものでした。しかし,羽生竜王も藤井四段も,相手のわずかなスキを見逃さず優位を築いてしまうというのは共通で,プロの将棋というのは,盤面のわずかのスキが命取りになるというのを見ていて実感しました。私はこのことが一番印象に残りました。
午後の準々決勝は期待どおり佐藤名人との対局になりました。しかも,藤井四段の先手番で,私はしっかりと表情がみられる席でした。
戦法は横歩取りで,はじめっから少しずつ駒組の段階で藤井四段が指しやすい感じになりました。
途中,手待ちで佐藤名人が2三金と上がったのが失敗で,そのスキにあっというまに飛車が攻められて藤井四段の駒得になったときは,ひょっとしたら勝つかな? と思いました。
私が驚いたのはその後で,私のようなへぼはタダでとれる飛車を取るという局面で,飛車なんてもう用済みだとばかり,アッという間に寄せ形を作ってしまったことで,こういうところがプロなんだなあ,と思いました。すごいものです。しかし,どうして,生まれてわずか15年でこんなことができるようになるのでしょう。そのことの方が不思議でした。
最後は,一手のミスもなく寄せきってしまいました。
それにしても,夢のような2日間でした。そもそも,羽生竜王と藤井四段の姿を間近にみられるというだけでも感激ものなのに,両者とも2連勝,そしてまた,藤井四段は公式戦ではじめてタイトルホルダーに勝つ,という歴史的瞬間を目撃できたということです。「名人に香車を引いて勝つ」と物差しに書き残して家出をしたのが升田幸三実力制第四代名人ならば,「名人をこす(の上になる)」と小学校の作文に書いた藤井聡太四段は,ついにその願いを果たしました。
何事も一流というのはすごいものです。もっと若いころにこういう機会があったなら,私の将棋の実力も今よりも少しはマシだったのに,と思ったことでした。
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藤井将棋の魅力-盤面全体に宝石をちりばめたよう