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小出駅は,魚沼市四日町にあります。上越線の駅ですが,只見線の終着駅でもあります。以前は只見線の列車が上越線経由で浦佐駅まで乗り入れていたこともあったそうです。
私は,これもまた,何も知らず調べず,今回の旅は,只見線に乗る,ということだけが目的でした。そこで,只見線を乗り終えたら,最短の方法で,その日のうちに帰宅することにしていました。小出駅から最も近い上越新幹線の駅を探したら浦佐駅だったので,小出駅から上越線で浦佐駅に出て,浦佐駅から上越新幹線で東京へ,そして,東京から東海道新幹線で名古屋へと乗り継ぐことにして,すでに新幹線の座席指定券は購入してありました。ただし,只見線が遅れたり,不通になることも考慮して,購入したのは,浦佐駅午後6時53分発東京駅着午後8時12分の「とき」342号,そして,東京駅発8時30分名古屋駅着午後10時23分の「ひかり」665号でした。帰宅がずいぶんと遅くなってしまうことだけが難点でした。
私は,目的を達成すると,それ以外はどうでもよくなる性分です。そこで,思ったより早く小出駅に着いたので,そこで新たな観光をする気もなく,予定を変更しできるだけ早く帰宅するために,新幹線の指定券を変更することにしました。
只見線の車内で親しくなったひとり旅の女性は,これから越後湯沢駅に行くということでした。私は途中の浦佐駅で降りるので,同じ列車でした。小出駅発11時10分と,30分ほど待ち時間があったので,一緒に小出駅で一旦改札口を出ました。駅前に食堂でもあれば昼食を,と思ったわけです。しかし,駅前には何もありませんでした。仕方なく駅に戻ってたわいもないおしゃべりをしながら列車を待ち,やがて,やってきた列車に乗りました。私が浦佐駅で降りるとき,彼女が,浦佐駅は何もないという話だ,と言ったのでびっくりしました。それまで,私は,「腐ってもタイ」,浦佐駅は新幹線の駅だから,そんなことはないと思っていたからです。
しかし,それは真実でした。本当に浦佐駅は話のタネにできるくらい何もない駅でした。
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浦佐駅は,南魚沼市の北部の大和地区に位置し,冬はスキー客,夏は奥只見湖や尾瀬方面への新潟県側の玄関口として旅行客にも利用されるということでできた駅です。また,日本の奇祭のひとつである「裸押合大祭」の舞台となる越後浦佐毘沙門堂もあります。
上越新幹線の建設が決定した当時,六日町と小出町の中間点に位置する浦佐に新幹線の駅が設けられることが決まった際,両町から異議の声が上がったそうです。でありながら,浦佐に駅ができたのには,「何らかの政治的な意図が働いていた」とする「政治駅」説や,「六日町は越後湯沢に近過ぎるため駅の設置が難しく,小出に設けるとルートが大回りになり,小出駅の構内が狭隘で新幹線ホームが設けられない」という「現実問題が背景にあったとする」説があるそうです。
駅ができたのち,スキー場が閉鎖されたこともあって,上越新幹線が開業した当初は1日2往復設定されていた只見線に直通する普通列車は廃止されました。現在,駅周辺には商業施設が少なく,医療機関や学校,宿泊施設が若干あるのみです。
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浦佐駅は異常なくらい閑散としていました。ほとんどというか,まったく乗客がいませんでした。
駅舎西口1階には団体待合室と化粧室とレンタサイクル駐輪場があって,それらは機能していたのですが,付近の待合室と化粧室は閉鎖されていました。駅の機能は2階に設けられているのですが,みどりの窓口すらありませんでした。新幹線改札口には自動改札機が2台あるのみでした。
私は,この駅で,座席指定券の変更をしようと思っていたから,改札口で聞いてみると,改札口のとなりにある「話せる指定席券売機」で行うようにと言われました。言われたまま「話せる指定席券売機」に向かって話しかけてみると,係員の顔が写り,遠距離で会話ができました。まず,指定席券を発券機に設置されたスキャナで読み取るように言われました。そして,浦佐駅発午前11時59分発東京駅着13時28分の「とき」318号の新たな指定席が決まりました。そして,次に,言われた通り券売機に切符を入れると,新たな切符が出てきました。なかなかおもしろい体験でしたが,お年寄りや外国人は困ることでしょう。
再び改札口に戻り,今交換した新しい切符と,すでに持っていた2枚の乗車券を駅員に示し,これで自動改札機が通れるかと聞くと,試してみましょう,と言われて,駅員が切符を自動改札機に通したら,無事通ることができました。ここで通したのは,名古屋駅から只見線を経由した大宮駅までの連続1と大宮駅から名古屋駅までの連続2,そして,変更したばかりの浦佐駅から東京駅までの上越新幹線の特急券の3枚でした。ということで,自動改札機を通り,ホームに行ってみたのですが,ホームには売店すらありませんでした。私は困りました。新幹線が来る時間までに,ホームにあると思っていた売店で駅弁を買うか,何か昼食をとるつもりでいたからです。
浦佐駅の2階にはかろうじてコンビニがあることだけは確認してありました。そこで,再び,改札口で駅員さんに話をして外に出してもらい,コンビニで昼食を買い,それを待合室で食べてから,今度は,自動改札機ではなく,改札口からホームに入れてもらいました。こんなことができるのも,私以外に乗客がまったくいなかったからに違いありません。また,駅員さんといっても,若い男性と女性のふたりだけでした。
ホームは,相変らず閑散としていて,この駅から列車に乗るのは2人から3人でした。
やがて,ホームに滑り込んだ「とき」318号に乗りこみました。憧れだった「とき」,いい名前です。車内は,思った以上に乗客が多く,空席はほとんどありませんでした。
上越新幹線は,三国峠を通る長いトンネルを抜けると,すっかり景色が変わります。まるで川端康成「雪国」の世界です。それまでは真っ白だった風景は一変して緑だらけとなり,雪に覆われた只見線が夢のように思えました。まもなく人だらけの東京駅に着きました。乗客が私ひとりの浦佐駅も日本なら何万人もいるような東京駅もまた日本です。信じられません。外国人でごった返すみどりの窓口で並んで,やっとのこと東京駅から名古屋駅までの座席指定券を変更してもらい,午後5時前には帰宅しました。
予想をはるかに超えた楽しい旅は,こうして終わりました。
もし,1日,日程が異なっていれば,大雪で,只見線に乗ることはかなわず,帰ることすらできたかどうか。いつもながら幸運でした。
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「しない・させない・させられない」とは
「Dans la vie on ne regrette que ce qu'on n'a pas fait.」とは