しない・させない・させられない

Dans la vie on ne regrette que ce qu'on n'a pas fait.

USA50州・MLB30球場を制覇し,南天・皆既日食・オーロラの3大願望を達成した不良老人の日記

タグ:名フィル定期演奏会を聴く

IMG_4821

【Summary】
On November 16, 2024, I attended the Nagoya Philharmonic Orchestra’s 528th Subscription Concert at Aichi Arts Center. Conducted by Tatsuya Shimono, the program featured the world premiere of Naoki Sakata’s Colored Shadows and Bruckner’s Symphony No. 9 in its original version.

######
 2024年11月16日,名古屋フィルハーモニー交響楽団第528回定期演奏会〈喜怒哀楽を超えて/ブルックナー生誕200年記念〉を聴いてきました。場所は愛知県芸術劇場コンサートホール,指揮は下野竜也さん,曲目は,坂田直樹の「彩られた影」-管弦楽のための-とブルックナーの交響曲第9番でした。坂田直樹の「彩られた影」-管弦楽のための-は委嘱新作で世界初演,ブルックナーの交響曲第9番は原典版での演奏でした。
  ・・・・・・
 ブルックナー(Joseph Anton Bruckner)は, 1824年に生まれ,1896年に72歳で亡くなりました。
 1887年,ブルックナーは交響曲第8番を完成させたのち過去の交響曲の改訂に労力を費やし,1892年になって,第9番の作曲に打ち込みはじめました。オーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフ1世からベルヴェデーレ宮殿の住居が提供され,完成をめざしましたが,ブルックナーが亡くなったときに完成していたのは第3楽章まででした。
  ・・・・・・

 第4楽章の草稿が残されているため,補筆して完成させた楽譜もあり,あるいは,この作品が未完成に終わった場合には自作の「テ・デウム」を第4楽章として演奏するように示唆したという話もあり,それらに基づいた演奏を,私もいくつか聴いてみたことがあるのですが,評価しません。
 また,未完に終わった交響曲第9番には,作曲者による異稿は存在しません。原典版以前に出版された初版(レーヴェ版)が存在しますが,改訂内容が過剰で,今日では上演されることはほとんどありません。私は,ブルックナーの交響曲で,第9番は第4番の次に好きな曲なので,楽しみに聴きに行きました。
 指揮者の下野竜也さんは,毎年のようにNHK交響楽団の定期公演に登場します。曲目の選択がユニークで,私が知らない曲を並べます。そこで,曲を聴いても,いいのか悪いのか,愚かな私にはいつもわかりません。そいう先入観があったので,指揮者下野竜也さんを少し敬遠気味だったのですが,昨年2023年12月のベートーヴェンの交響曲第9番を指揮したのをテレビで見て,私の印象がすっかり変わりました。そして,聴いてみたい指揮者のひとりとなりました。
 ということで,今回,聴きにいったわけです。

 1曲目の坂田直樹の「彩られた影」はユニークなものだったのですが,2曲目のブルックナーの交響曲第9番は大曲で,私はこれが目当てでした。
 期待通りのメリハリのある演奏でした。ブルックナーの交響曲第9番は,もし,第4楽章が完成していたたらどんな曲になっていたでしょう。今のままでの十分で,これ以上このような音楽が続いても,さすがに疲れます。
 この曲の極めつけは第2楽章スケルツォ。トリスタン和音に続く43小節からのトゥッティはとても印象的なものです。
 私は50年以上前はじめて聴いたときは,ちょっとやりすぎじゃないの,と思ったのですが,この楽章があるゆえに,第3楽章が生きるのです。また,第2楽章は,演奏するオーケストラによってボーイングの違いがよくわかり,これが,この楽章全体の違いともなります。

 それにしても,いつも思うのですが,名古屋でクラシック音楽を聴くと,どうしていつも地味に聴こえるのでしょう。よし悪しは別として,要するに華がないのです。オーケストラもそうだし,聴いている観客もまた,何かしらさえません。それがまた,いかにも名古屋です。少し前に聴いた井上道義さんのときだけは,華だらけでしたが…。
 下野竜也さんはいい指揮者ですが,やはり,華というか,カリスマ性には少し欠けるところがあります。ブルックナーの交響曲は,どんなにいい演奏をしても,このカリスマ性がないと,いまひとつ何か物足りないのは致し方ありません。カリスマ性は,重厚さ,神々しさにつながるもので,歳を重ねてはじめて出てくるものです。下野竜也さんはまだ若いので,この先,どういうカリスマ性がにじみ出てくるか,楽しみです。
 終演後,団員さんのお見送りががありました。「名フィル」もまた,いい意味で変わりつつあります。

ブルックナー9

85b97de9-s


◇◇◇


◆◆◆
「しない・させない・させられない」とは
「Dans la vie on ne regrette que ce qu'on n'a pas fait.」とは

◆◆◆
過去のブログの一覧は ここ をクリックすると見ることができます。

IMG_2136

######
 2023年5月12日,地元名古屋の名古屋フィルハーモニー交響楽団第512回定期演奏会を愛知県芸術劇場コンサートホールで聴いてきました。最高に楽しく,最高に難解で,最高に疲れたコンサートでした。
 名古屋フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会に行くのは数年に1度のことで,定期会員になろうと考えたこともあるのですが,NHK交響楽団の定期公演に比べて,私にはプログラムが凝っているように感じてちょっと敷居が高く,いつも見送っていて,時折,とても魅力的な曲目や指揮者,独奏者のときだけ出かけています。数年前には,私の好きなショスタコービッチの交響曲第15番がプログラムにあったので期待したのですが,コロナ禍で中止になってしまいました。
 井上道義さんが指揮をする今回の演奏会の曲目は,バルトークのルーマニア舞曲Sz.47a BB 61, バルトークのヴァイオリン協奏曲第2番 Sz.112 BB 117,クセナキスの「ノモス・ガンマ」(Nomos Gamma),ラヴェルの「ボレロ」でした。
 今回は「継承されざる個性」というテーマだったのですが,私は,ヴァイオリン協奏曲第2番と「ボレロ」以外はまったく知らず,なんじゃこの曲目たちは,という感じだったのですが,その道の人たちには,有名,というか,井上道義さんは,これらの曲を演奏会でとりあげたことがこれまでにも何度もあるという,いわば,十八番であり,また,井上道義さんの指揮に限らず,「ノモス・ガンマ」「ボレロ」と続く演奏会も行われているようです。

  ・・・・・・
 「継承」が通季テーマなのに,誰も継承できない唯一無二の個性を発揮したプログラムを組みます。井上をリスペクトする服部百音とのバルトーク,スコア指定通りに円形配置で演奏するクセナキス,そしてそのままの配置での「ボレロ」。コンサートが歴史的事件となります!
  ・・
 「ノモス・ガンマ」と「ボレロ」を続けて聴けば「音楽史上最もクレイジーな曲」の第1位と第2位をいっぺんに体験したことになるのではないかと。これが人類の創造力の極北!!
  ・・・・・・
というのが,このコンサートのウリだそうですが,2024年末の引退を間近にした井上道義さんが,やり残したことをすべてやってやるぞ,という感じに私には思えました。だれもこんなコンサートマネできねえよ! と叫んでいるような…。つき合うほうは大変です。しかし,考えようでは,こうしためったに接することのできない曲を聴くことができるたのは貴重な経験でした。
 浅学の私は,こうした難しい曲はさっぱりわからないのですが,今回聴きにいった理由は,指揮・井上道義さん,ヴィオリン・服部百音さんという絶妙な組み合わせのコンサートをぜひ一度聴いてみたかった,ということに尽きます。が,できることなら,ショスタコービッチのヴァイオリン協奏曲が聴きたかった! とはいえ,井上道義さんが言うには,最も難解な協奏曲だと思うバルトークをぜひやりたい,と主張したのは,23歳の服部百音さん自身で,本人もオーケストラもとても大変だったけれど,いい出来だった,ということでした。
 この難解な曲たち,ゴールデンウィーク後の週末, どれだけのお客さんが入ることだろう? と思っていましたが,明日,土曜日は完売,この日は,当日券を求めて長蛇の列ができていました。

 まったく不勉強な私自身のために,まず,バルトークの作品番号について調べてみました。これは3種類存在します。
●「Sz番号」
 ハンガリーの音楽学者であるセールレーシ・アンドラーシュ(Szollosy, Andras)が作成したバルトークの音楽作品と音楽学論文の目録です。1921年生まれのアンドラーシュ・セーレーシは,バルトーク以後のハンガリー作曲界の最長老的存在です。リゲティやクルタークと同世代にあたります。
●「BB番号」
 バルトーク研究の権威でブダペスト・バルトーク研究所の二代目所長のラースロー・ショムファイ(László Somfai)によって作成された作品目録の番号で,厳密な作曲時期によって配列されます。BBはバルトーク(Bartók Béla)のことだと思われます。
●「DD番号」
 ブダペスト・バルトーク研究所の設立に貢献し,初代所長を務めたベルギーのカトリック司祭で音楽学者のデニス・ディーレ(Denis Dille)が作成した作品目録の番号で,多くはセールレーシ・アンドラーシュの分類から漏れている,主に初期に作曲されたものにつけられた番号です。
●「Op.」
 作曲者本人による番号ですが,つけ直しによって番号が重複しています。

 次に,今回の曲目についてです。誰もが知る「ボレロ」は省略ですが,こういう曲の指揮は,井上道義さんノリにノルのでお似合いでした。それにしても,最後に「ボレロ」がなければ,それまでの3曲で張り詰めたこころの持っていく場がなかったいというか,そんな感じもしました。
●ルーマニア舞曲
 この曲は,2つのルーマニア舞曲Sz.43 BB56 Op.8aの第1曲を編曲したものです。よく似た名前のピアノ版ルーマニア民俗舞曲Sz.56 BB68とそのオーケストラ版Sz.68 BB76があります。
 短い曲ですが,舞曲だから当然子気味よく,次のヴァイオリン協奏曲第2番を聴くためのこころの準備のような感じでした。
●ヴァイオリン協奏曲第2番
 1937年から1938年にかけて作曲した作品で,生前はバルトークの唯一のヴァイオリン協奏曲と思われていましたが,死後,ヴァイオリン協奏曲 第1番が再発見されたことで,第2番となりました。
 「ヴェルブンコシュ」(verbunkos)というハンガリーの民族舞曲が基になっているこの曲はとてもバルトークらしく,民族色豊かで,調性感が強かったり弱かったりとめまぐるしく変化したり,非常に美しい旋律が散りばめられていたりして,私は嫌いではありません。おそらく聴き込んでいくとその魅力にはまっていくだろうと思える曲です。緊張感がたまりません。
 服部百音さんのtwitterには「人生初の,そしてマエストロとは人生最初で最後のバルトーク」と書かれてありました。2022年12月8日に東京オペラシティコンサートホールでパーヴォ・ヤルヴィ指揮ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団を聴いたとき,偶然,私の席からふた席ほど左隣りでお見かけした服部百音さんがステージにいるというのが私には一興でした。
 服部百音さんがTwitterで「カッコウ」の旋律があると書いていましたが,確かに第3楽章に「カッコウ」が何度も出てきました。また,ヴァイオリンソリストと指揮者の丁々発止の掛け合いがおもしろかったです。
●「ノモス・ガンマ」
 作曲したヤニス・クセナキス(Iannis Xenaki)は,1922年にルーマニアに生まれ,2001年に亡くなったギリシャ系フランス人です。今回演奏される「ノモス・ガンマ」は,宇宙の創生,ジャングルの大嵐,森羅万象…といった,ほとばしる熱気とは裏腹に数学を基盤にして作られた曲です。オーケストラは円形に配置され,8人の打楽器奏者が円の縁を取り巻く形で,フルートの隣がチェロのような通常ではあり得ない配置で演奏されます。
 この曲でクセナキスが追い求めたのは,徹底した自由の精神,ということだそうですが,演奏している人も,聴いている人も,何を思い,感じて聴いているのだろうと思いました。私は,何か,宇宙の創成に立ち会っているような,あるいは,未開の大地に放り込まれたような気がしました。そんな映画のバックミュージックにしたら似合いそうです。悪くない,というか,ものすごくおもしろかったです。
 なお,名古屋フィルハーモニー交響楽団のTwitterによると,「ノモス・アルファ」はチェロ協奏曲,「ノモス・ベータ」は室内楽の委嘱に備えて飛ばし,この「ノモス・ガンマ」はロアイヤン(Royan)というフランスの都市の音楽祭での委嘱で書かれた大編成オーケストラのための作品だそうです。

 S席,前から3列目,ヴァイオリンソリストの真ん前だったので,ヴァイオリン協奏曲第2番には最高の位置でしたが,「ノモス・ガンマ」と「ボレロ」は,むしろ,2階席や3階席,ステージ後方P席のほうがよかったかもしれません。ただし,私の座った席は臨場感は抜群でしたが…。井上道義さんは,S席が上席とは限らないコンサートだと書いていました。してやられた!
 いずれにしても,聴きにいってよかったコンサートでした。

IMG_6281IMG_6280


◇◇◇


◆◆◆
「しない・させない・させられない」とは
「Dans la vie on ne regrette que ce qu'on n'a pas fait.」とは

💛
過去のブログの一覧は ここ をクリックすると見ることができます。

このページのトップヘ