●カナダ国境に達する。●
スイフトカンレントレイクを1周するトレイルを歩いたあとで,メリーグレイシャーホテルで昼食をとった。私は旅先の食事は,何も特別なことがなければ質素に済ませるが,こうしたすばらしい場所に行ったときはその気分に合わせて豪華な食事をすることにしている。ここでは気持ちももりあがったので,贅沢をすることにした。
日本では都会のレストランで昼食をとろうとするとどこも列が出来ていて,だからといって座席はせまく,まったく楽しくないが,そういうものとはまったく違って,広々としてしかも優雅に食事ができる。ここではさらに,窓からも美しい景色を見ることができた。
食事を終えた。もう少しでカナダ国境である。そこで私はさらに北上してカナダ国境まで行ってみることにした。
メニーグレイシャーから東に進み,Babbという町で左に折れて国道89に入り,4マイルほど北上してY字の交差点を左に曲がり州道17に入った。この道路がチーフマウンテン・インターナショナルハイウェイ(Chief Mountain International Hwy)という,文字どおりアメリカとカナダを結ぶ道路で,ここを14マイル北に走るとカナダとの国境である。
道路のまわりはのどかな森が続いていた。アスペンやロッジポール松の林のなかを進んでいくのだが,途中,牛の群れが道路の端をのっしのっしと歩いていくので,注意が必要である。
日本で車を運転するのとアメリカやオーストラリアで車を運転するのとでは,自然や野生の動物に対する注意が何倍も違うから,かなりの慎重さが求められる。日本のような傍若無人でスピード競争をしているような運転はきわめて危険である。
道路の左側に奇妙な台形の山が迫ってきた。これがチーフマウンテンである。チーフマウンテン(Chief Mountain)は標高9,085 フィート (2,769メートル)。ロッキー山脈で最も目立つ山頂と岩といわれていて,モンタナ州の中心部からカナダのアルバータ州まで伸びるルイス・オーバートラスト(The Lewis Overthrust)として知られる200マイル(320キロメートル)の断層である。
オーバートラストというのは押しかぶせ断層という意味である。上盤が下盤に対して相対的にずり下がった場合を正断層といい,逆に,ずり上がった場合を逆断層という。逆断層のうち断層面の傾斜が45度以下の緩傾斜の場合を衝上断層といい,さらに緩傾斜の場合を押しかぶせ断層とよぶ
そして,さらにそのむこうに,グレイシャー国立公園で最高峰である Mt.Cleveland も見え隠れしていた。
そのうちに国境の建物が見えてきた。思えば私は,これまでにもワシントン州で陸路アメリカ国境を越えてカナダに行き,カナディアンロッキーの観光をし,アイダホ州で再び国境を越えてアメリカに戻ってきたことがあるが,それは今から20年ほど前のことであった。そのときは難なく簡単に国境を越えることができたのだが,今は国境を越えることはけっこう大変らしい。
インターネットの発達で,海外旅行をするときは便利になったこともある反面,テロなどの増加によって,いろいろセキュリティが厳しくなってしまって,昔ののどかさを失ってしまったことも少なくない。アメリカ旅行は1990年代が最も楽しかったように思う。
国境を越えると,グレイシャー国立公園はウオータントンレイクス国立公園(Waterton Lakes National Park)と名前を変える。カナダの国立公園はアメリカの国立公園とは異なり,日本と同じで自然保護より観光重視,これはナイヤガラの滝に行ったときに私が感じたことである。
私は今回は国境を越える予定がなかったので,ここらあたりでUターンをして戻ることにした。
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国境を越えること-アメリカ合衆国の51州目になれば?
自分にはさほど関わりのない人とのお付き合いというのは結構長く続くものです。普段気にもしていない人とは逆に疎遠にもなりません。その一方で,親しい人ほど一度仲たがいをすると絶縁状態になってしまいます。
それはモノも同様で,大切にしていたモノほど,いつの日かなくなってしまうのですが,どうでもいいものはいつまでも残っています。
旅をしていても,貴重品はきちんと管理していないとどこかになくしてしまいそうで危険なのですが,どうでもいいチラシとかゴミはいつまでも存在します。
国と国のお付き合いもまた,お隣同士はなかなかうまくいかないものです。お隣同士なのに仲がよいというオーストラリアとニュージーランドの不思議な関係なんて,日本人には全く理解できないことでしょう。この2国は紛争の歴史を共有していないからなのかもしれません。
多くの日本人は,北朝鮮が世界中から孤立しているように報道されるからそう思っていますが,世界の120以上の国と国交があって,国交がない国の方がむしろまれです。それは,地理的にも経済的にも関わりのない存在だと思っている,つまり,どうでもいいと思っている国の方が多いからです。
日本は島国なので,国境線という意識がほとんどありません。そこで,大陸で異国と接している国の人とは全く異なる感覚をもっているのでしょう。
私が陸の国境線を越えた経験は,アメリカ合衆国とカナダ,アメリカ合衆国とメキシコくらいのものですが,それはとても不思議な感覚でした。しかし,アメリカの隣国は国境を越えればすぐにお隣の国に入国できます。
それに対して,西アジアの国々の国境では,単に国境に壁やら塀があるだけでなく,そこには国境緩衝地帯というものが存在しているようです。陸上で国を出国しても一旦緩衝地帯を経由しないと,次の国に入国ということにはならないわけです。だから,出国しても次の国に入国できない,という宙ぶらりんの状態で何日もすごすという羽目に陥ることもあるらしいのです。
今日載せた写真は,私が写した国境の写真です。1番目から3番目のはアメリカ合衆国とメキシコの国境です。
テキサス州ではリオ・グランデ川(Rio Grande)が国境となっていて,この川が国を隔てています。この川にはいくつかの橋が架かっていて,ある橋では車が通行でき,またある橋は徒歩で国境を越えることができます。
ここでは川の向こうにあるメキシコの家々や空高くたなびく国旗をアメリカ側から見ることができますが,そうしたものを見ると何かとても不思議な気になります。
一方,4番目と5番目はアメリカ合衆国とカナダとの国境ですが,こちらは,まるで,高速道路の料金所のような感じです。今はどうなのか知りませんが,10年以上前,私がアイダホ州の北の国境でカナダからアメリカへ国境を越えたときは,パスポートを見せるくらいで行き来ができました。
また,ナイアガラの滝では,滝にかかるレインボーブリッジの上が国境になっています。
人間が人工的に作った「国」とそれを隔てるための「国境」,国と国のお付き合いというものは人間の歴史に多くの事件や紛争を生んできました。
以前,「日本はアメリカの51番目の州になればいい」とか発言して物議をかもした代議士がいました。政治家がそういう話をすると大問題となるのですが,もし,日本がアメリカの属国とか植民地ではなく,ハワイ州のように,51番目の独立した州となったら,どういうことになるのでしょうか?
まず,為替差益の問題がなくなります。円高だの円安だのという話題は不要になります。貿易赤字という問題もなくなります。
当然大学の入試制度も変わりますし,日本人の働きすぎもなくなります。
日本のプロ野球もメジャーリーグの機構に組み込まれます。現在メジャーリーグは30球団あって,これは実際には32球団あったほうが望ましい数なので,日本から2球団を加え,残りの10球団はマイナーリーグにすればいいわけです。日本人プレイヤーはもっと容易にメジャーリーガーとなれます。
しかし,アメリカは「合衆国=合州国」なので,州の独自性は認められます。ハワイのように憲法すら存在できます。つまり,日本の独自性も尊厳も保たれます。当然,文化も尊重されます。
内閣総理大臣は自動的に「日本州」知事となり,国会は州議会となります。また,アメリカ大統領選挙に投票もできます。
しかし,こんな理屈を語っていても,それを越えたところでその国の尊厳とか誇りとか独立性があるからそんな話は空論に過ぎないわけで,それが「国」だということでしょう。難しいものです。