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2021年12月13日に行われた将棋新人戦記念対局が昨日2022年1月2日にABEMAで放映されました。2021年度の新人王となった伊藤匠四段の対戦相手が時の人藤井聡太竜王でした。
このふたりは子供のころからのライバルということで話題となりました。この先,このふたりがタイトル戦で対戦するようになれば,将棋界としては万々歳だと,みんなが期待しています。でないと,盛り上がりません。
思えば,わずか3年前,2018年度の新人王は藤井聡太当時七段で,記念対局の相手として選ばれたのは第一人者豊島将之当時二冠でした。このころから豊島将之九段は藤井聡太竜王に対して,他の棋士と対戦する以上の気合をみせていたといいます。今回もまた,そのときと同じように,藤井聡太竜王は将来のライバルとなるかもしれない伊藤匠四段に非公式戦とは思えない白熱した対局をしたということです。
それにしても,急に一般の関心を集め出した将棋界というのも大変です。
以前なら愛好者だけの関心事だったので,古きよき時代ののんびりさやら,演出がありました。将棋界は商売上手で,藤井聡太という棋士のデビュー戦が加藤一二三九段というのも,意地悪な予測をすれば,演出気味だったし,最年少タイトル獲得というのも,コロナ禍でその達成が絶望視された中で苦し紛れのスケジュールの中で行われたものだと思うのですが,それでよしとしたものです。
それが,新たなファンが殺到したものだから,これまではそれほど話題ともならなかった記録というものが,プロ野球のように重きをなしてきたわけです。そこで,録画で放映するNHK杯とか銀河戦などがその時間差から放映されるまで記録に含まないという古きよき伝統があるので,さまざなな議論が生まれていたりもします。収録から放映まで2週間程度のNHK杯ならまだしも,3か月も前に収録するような銀河戦の扱いは,やはり,今の時流からは問題かもしれません。
今回は,現在までの伊藤匠四段の年間勝率が藤井聡太竜王より上回っているとかで,さらに盛り上がっていたのですが,実際は,その勝率にはすでに対局が行われたのに未放映の銀河戦が含まれていないので,それが勝ちであろうと負けであろうと,実際は32勝7敗ではないわけです。さらに,あるサイトによると,未放映の銀河戦のことではなく「4月11日に放映されたNHK杯での伊藤匠四段の負けが記録に含まれていないから実際は32勝8敗」とあるのですが,その対局は放映日が今年度であっても収録は2020年度だと思うので,将棋連盟のミスではなく,そのサイトの間違いでしょう。
ということで,以前ならほとんどの人が興味のなかったことがかまびすしくなっている状況なのです。
さて,私は,そんな記録よりも,「Floodgate」(コンピュータ将棋連続対局場所)のほうにむしろ興味があります。これは,コンピュータソフト同士による将棋の対局の場だそうですが,今,ここで最も話題となっているは,先手が既出のさまざな戦法を用いても,AIによる将棋では究極的にはみな千日手になってしまうで,これを打開するための革新的な初手,たとえば▲6八玉といった手を指す必要があるといった話です。
そこで私は思うのですが,この先,量子コンピュータなるものが実用化されてしまったとき,本当に将棋の結論が出てしまうのではないか,ということです。つまり,あらゆる手を順番に樹形図として書いていったときに,必然的に結論が出てしまう。もし,その結論が先手必勝だったとしたら,後手がどんな手を指しても,樹形図にしたがって先手が最善手を指し続けていけば,その結果,必ず先手が勝ってしまうし,もし,結論が千日手だったとしたら,やる意味がない。であれば,将棋というゲームは終焉を迎えてしまうわけです。そのときにまだ人間の将棋の対局があったとしても,コンピュータの結論を人間が暗記できるかどうか,というだけの話となります。つまり,ミスをしたほうが負け。
しかし,そこまではいかずとも,今すでに,プロ棋士がAIの示した最善手をいかに正しく指せるか,みたいなことになりつつあるわけで,今回の新人王戦の記念対局でも,何度か「これは人間には思い浮かばない」というAIの示す最善手を藤井聡太竜王が指して,解説者をうならせていました。現在はそれでみんな感動するのですが,このことは「藤井聡太という高性能コンピュータ」の指し手に対して相手がミスをすれば負け,みたいな状況になっているようなものです。
いずれにせよ,コンピュータのハードウェアとソフトウェアの急激な発達で,将棋の終焉は思った以上に早くやってきてしまうのかもしれません。
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「しない・させない・させられない」とは
「Dans la vie on ne regrette que ce qu'on n'a pas fait.」とは