2年前に見た朝日杯将棋オープン戦ですが,今年,2年ぶりにまた見にいく機会があったので,観戦しました。
チケットの発売日を忘れていて,というか,もう1回見たからいいやと思っていたのですが,発売日当日,ツイッターで発売開始5分後に知って,試しにサイトを開くとすでにほとんどが売り切れでしたが最後列の4枚だけ残っっていたので,購入し(てしまい)ました。
この日は,ベスト16からのトーナメントで,参加棋士が4人。午前中に2局あって勝者が午後に1局,これに勝ち残るとベスト4進出になります。2年前とは会場が異なっていて,今年は朝日新聞名古屋本社の15階にある朝日ホールでした。ひと部屋が対局場でもうひと部屋が解説会場となっていました。対局会場はひな壇になっていてい,午前中の2局はひな壇の両端で同時進行,両方とも観戦することができました。ただし,2年前は対局後に解説会場にも入れたのですが,今年は,対局会場か解説会場のどちらかしか入れませんでした。
このように,毎年,試行錯誤状態なのですが,次第に工夫が実り見やすくなってきました。ただし,今年は解説会場が狭く,もう少し広いといいなあ,と思いました。
朝日杯将棋オープン戦は,持ち時間が40分で使い切ると1手60秒,というのが絶妙で,対局が終了するまで約2時間,しかも,1手30秒とはえらく異なって,考えることができるので,内容が濃くなります。どうやら,藤井聡太七段にはこの持ち時間が向いているらしいのです。
今年の藤井聡太七段の対戦相手はかなりの難敵で,さすがに朝日杯オープン戦の3連覇は無理だろうと思っていました。そこで,午後の2局目までいけるのだろうかと,ほとんど期待もせず,会場に向かいました。
藤井聡太七段の1局目の相手は菅井竜也七段で,これまで1勝2敗でした。菅井竜也七段の粘りを打ち破れるかが勝負です。はじめ,少し優勢かな,と思っているうちに,早指しで何やらこちゃこちゃとやられているうちになんかごまかされたようになって,気が付くと不利になっていました。こりゃ2局目はないなあ,と思っているうちに形勢が逆転して,ついに勝利しました。ただし,帰宅後にコンピュータの将棋ソフトで調べてみると,会場で思っていたほど不利でもなかったようでした。それにしても,最後の盛り上げはかなりのものでした。
2局目は,1局目に三浦弘行九段に勝った斎藤慎太郎七段とでした。斎藤慎太郎七段に対してもこれまで1勝2敗と苦手としています。それもはじめに2連敗,つい先日にやっと1勝をあげたという状況です。この将棋はねちねちと序盤が長く,相撲で言う指し手争いみたいな感じになっていたのですが,そのうちにわずかなスキを捉えて藤井聡太七段が有利となりました。最後は,いつものように受けても勝てるほど優位だったのに,1手勝ちを読み切って攻めていって,そのまま押し切りました。対局者はわかっているのでしょうが,見ているほうはハラハラしました。
それにしても,以前にも増してさらに強くなったものだと思いました。こうして,これまで分が悪かった相手に対しても堂々と勝てるようになってきて安定感もねばりもあってすごいもんだと思いました。よいものを見ました。
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朝日将棋オープン戦の観戦②-目撃・藤井四段名人に勝つ。
朝日杯将棋オープン戦の名古屋対局2日目。私は2日ともS席のチケットが予約できたので,連日の観戦でした。
今日は昨日と同じ2列目だったのですが,昨日と違って今日は左から12番目だったので先手番の棋士の表情がよく見える席でした。1列目は主催者様のお席のようで,1列目の真ん中に中部電力の社長さんがお座りになっておられました。
午前の1回戦は指定席のある広いほうの対局場が藤井聡太四段対澤田真吾六段戦,自由席の狭いほうの対局場が佐藤天彦名人対永瀬拓七段戦で,この勝者同士が午後の準々決勝で対戦します。
そこで,1回戦で藤井四段が勝ち進むと,午後もまた観戦できるというわけで,理想としては,午前に勝って午後に佐藤名人と対局をする,ということだったのですが,そんなうまくいくのかいな? と思っていました。
が,そうなりました。
相変わらず,私は運がいい男です。
まず1回戦です。
現われた藤井四段と澤田六段は澤田六段が先手で,当然昨日の羽生竜王のような堂々としたオーラ,という感じではなくて,若者らしい感じで,一手目から考えることもなく,どんどんと手が進みました。
昨日との違いは報道陣で,昨日は主催新聞や囲碁・将棋チャンネル,そして,AmebaTVくらいのものだったのですが,今日は,様々な放送局をはじめ,地元紙誌やらスポーツ紙とものすごい数でした。
藤井四段はおよそ中学生らしくないのですが,足元を見るとスニーカーだったのが,まあ,中学生らしいというか,ほほえましい感じでした。
局面は角換わりになりました。澤田六段が居玉で攻めてきたので藤井四段が有位だと思っていたのですが,澤田六段の2二歩という緩手1手のスキに藤井四段があっという間に攻め潰しての完勝でした。
藤井四段の将棋は昨日の羽生竜王の将棋とは違って主体性があり,若者らしく積極的でその対比が面白いものでした。しかし,羽生竜王も藤井四段も,相手のわずかなスキを見逃さず優位を築いてしまうというのは共通で,プロの将棋というのは,盤面のわずかのスキが命取りになるというのを見ていて実感しました。私はこのことが一番印象に残りました。
午後の準々決勝は期待どおり佐藤名人との対局になりました。しかも,藤井四段の先手番で,私はしっかりと表情がみられる席でした。
戦法は横歩取りで,はじめっから少しずつ駒組の段階で藤井四段が指しやすい感じになりました。
途中,手待ちで佐藤名人が2三金と上がったのが失敗で,そのスキにあっというまに飛車が攻められて藤井四段の駒得になったときは,ひょっとしたら勝つかな? と思いました。
私が驚いたのはその後で,私のようなへぼはタダでとれる飛車を取るという局面で,飛車なんてもう用済みだとばかり,アッという間に寄せ形を作ってしまったことで,こういうところがプロなんだなあ,と思いました。すごいものです。しかし,どうして,生まれてわずか15年でこんなことができるようになるのでしょう。そのことの方が不思議でした。
最後は,一手のミスもなく寄せきってしまいました。
それにしても,夢のような2日間でした。そもそも,羽生竜王と藤井四段の姿を間近にみられるというだけでも感激ものなのに,両者とも2連勝,そしてまた,藤井四段は公式戦ではじめてタイトルホルダーに勝つ,という歴史的瞬間を目撃できたということです。「名人に香車を引いて勝つ」と物差しに書き残して家出をしたのが升田幸三実力制第四代名人ならば,「名人をこす(の上になる)」と小学校の作文に書いた藤井聡太四段は,ついにその願いを果たしました。
何事も一流というのはすごいものです。もっと若いころにこういう機会があったなら,私の将棋の実力も今よりも少しはマシだったのに,と思ったことでした。
◇◇◇
藤井将棋の魅力-盤面全体に宝石をちりばめたよう
朝日将棋オープン戦の観戦①-国民栄誉賞羽生竜王を見た。
朝日杯将棋オープン戦の名古屋対局が1月13日と14日にあって,これまでに勝ち残った棋士のうち8人が集結して,4人ずつ2日間にわたって,午前中に2局,勝ち残った2人で午後の準決勝が行われるという話がありました。運がいいというか,よすぎるというか,勝ち残っている棋士のなかには,1日目には羽生善治竜王が,2日目は時の人・藤井聡太四段が登場するということになったので,2日とも見にいくことにしました。
何ごとも,運は自ら行動して掴むものです。こんな機会,おそらく二度とありますまい。
対局場は午前はふたつあるのですが,ひとつは広い部屋で全指定席,もうひとつは狭い部屋で自由席ということでしたので,指定席のうちもっとも棋士に近いS席を前売りで手に入れました。1日目の広い部屋に登場するのはもちろん羽生竜王なのですが,2日目は広い指定席のほうが藤井四段で,もうひとつの狭い自由席のほうが佐藤天彦名人というのが,なんともはや,という感じです。しかし,人気を考えると,これしか方法がないのをだれもが納得することもまた,不思議なことでもあります。
ということで,今日は1日目が終了した昨日の様子について書きます。
私の席は前から2列目の左から5番目でしたが,羽生竜王が2局とも後手番だったので,ちょうど表情が見える席でラッキーでした。
手の震えもそのまま見えました。
午前の1回戦は対戦相手が高見泰地五段でした。
戦法は後手番の羽生竜王が角道を止めた四間飛車ということで,これは40年前に流行した戦いです。そのころと違うのは,角道を止める振り飛車というのは,居飛車穴熊の亡霊を見ながら序盤を進めなくてはならないということなので,藤井システムですが,それでも,ちょっと無理して,ともかく先手は穴熊に組み上げました。羽生竜王が攻めを誘って手待ちをしている間に先手は歩を突き捨ててやや無理攻めに攻めていったのですが,1手ミスったときに鮮やかに羽生竜王の端攻めが決まって完勝しました。強いものです。
羽生竜王の将棋というのは,相手に乗っかって指し進めていって,相手にわずかでもスキがあれば,それに乗じて攻め潰す,というものなので,主体性はないのですが,いわゆる横綱相撲です。白鵬に見せてやりたいものです。1局目はこれが見事に決まりました。
午後の対局は,午前に糸谷哲郎八段戦で勝ち上がった八代弥六段戦でした。
戦法は,また後手番になった羽生竜王が,これもまた午前と全く同じ角道を止めた四間飛車でした。
若手は相がかり,あるいは相横歩取りの最新形を目指して,先手番で2六歩と突くので,それを避けるにはこうした振り飛車になるのかな? と思いました。公開対局で最新形を指すのは,おそらく羽生竜王には骨が折れるのでしょう。
今回は先手が穴熊ではなく急戦を挑んだので,40年前の将棋と同じ形になりました。この定跡を作った青野九段と米長永世棋聖の住んでいた場所にちなんで鷺宮定跡といいます。そのころはこんな将棋ばかりでした。そして,細部まで定跡ができたのですが,結局,今同じものを指すと無難な将棋に落ち着くのが不思議なことです。将棋の定跡なんて,進化しているのやらそうでないのなら…,結局は流行というくくりだけなのかな,と感じました。
途中,羽生竜王が馬を作られて少し不利っぽかったのですが,うまく指して駒得になったあたりでは優位になったかな? と思いました。そして,1手すきやら詰めろやらで先手玉を攻めていった辺りでは勝ちだと思ったのですが,おそらくどこかでミスがあって,詰めろがほどけてしまったあたりでは逆転ムードでした。その後はいわゆる泥試合となっていったのですが,後手玉を攻める手がなくなったあたりから,再び羽生竜王が優勢になって,最後は勝利しました。対局時間3時間164手の熱戦でした。素晴らしい対局を見せていただいたものです。