しない・させない・させられない

Dans la vie on ne regrette que ce qu'on n'a pas fait.

USA50州・MLB30球場を制覇し,南天・皆既日食・オーロラの3大願望を達成した不良老人の日記

タグ:朝日杯将棋オープン戦

FullSizeRenderFullSizeRenderFullSizeRenderFullSizeRenderFullSizeRenderFullSizeRender

 以前,囲碁は足し算で,将棋は掛け算ときいたことがあります。確かに,囲碁は1手1手の積み重ねがポイントとなり,将棋は1手ばったりで詰んでしまうというゲームです。しかし,囲碁だって石の生き死にを競っているときには1手間違えれば頓死して,オセロのようになってしまうから,囲碁は足し算というのは正しくないと思うのですが,それでも,終盤の寄せ合いとなると,高段者はほとんど間違えず,最後の結果がわかっていながらも,延々とアマチュアにはわけのわからない寄せが続くので,見ていても退屈します。
 それに比べたら,将棋の掛け算というのはいい得て妙です。終盤では,いくら大優勢であっても,1手間違えると大逆転してしまうから,最後の最後まで手に汗を握るという戦いになります。まさに掛け算,それも,マイナス1をかける,といった感じでしょうか。ただし,まれに出現する入玉将棋では,急に,囲碁の寄せ合いの様相を呈してしまいます。
  ・・
 将棋に限らず,逆転の要素が多いゲームほど見ていておもしろいものです。野球には満塁ホームランがあり,3点差が逆転します。アメリカンフットボールがおもしろいのはタッチダウンでの点数が6点と大きくて最後の2秒でも逆転するからです。それに比べてサッカーは単調です。しかも,同点で終了したときのPK戦なんて,サッカーではありません。私は,PK戦をやるくらいなら,同点で残り10分になったら,ボールを2個にするほうがずっとおもしろいと思っているのですが…。
 どのゲームにも欠点はあります。

 余談はともかく。
 藤井聡太二冠が3回目の優勝を飾った昨日2月11日に行われた朝日将棋オープン戦の準決勝と決勝は,まさに,その逆転の妙を味わうことができた対局になりました。
 準決勝では,昨年行われた第91期ヒューリック杯棋聖戦5番勝負の第1局で,挑戦者だった藤井聡太・当時七段が渡辺明棋聖に対して「最終盤で126手目から30手あまりにわたって,16手連続で王手王手と正確にせまる渡辺明棋聖に対して,すべて正解手を延々と続けなけらば勝てない」という対局に勝利した終盤戦を思い出しました。そして,そのときと対局者が同じ今回の対局では,そのときの逆で,渡辺明名人が1手も間違えずに藤井聡太二冠に迫れば勝てる,というところで,123手目▲8五香と取れば△7四玉に対して▲7三金で詰みというのが見えず▲8四歩と間違えて指したために,マイナス99パーセントがプラス96パーセントに大逆転したという結果となりました。
 また,三浦弘行九段との決勝戦も同じような状況になって,マイナス98パーセントまで劣勢になったものの,三浦弘行九段が82手目正しくは△5五歩のところ△5五金と打って形勢が戻り,さらに,最後の最後92手目に三浦弘行九段が△3二銀と間違えました。

 ABEMAでは,将棋AIの表示する評価値が表示されるので,素人にも形勢がわかってよいのですが,「正解手」を指せば99パーセント優勢で,間違えたらマイナス96パーセント,というのを,観戦者はどう受け止めながら見たらよいのでしょう。また,前回の藤井聡太二冠対窪田義行七段のB級2組順位戦の放送から表示が改良されて,AIが何手読んでいるということも表示されるようになったのですが,19億手と書かれても,それがすごい数字だとは思っても,実際のところ,その意味がよくわかりません。
 というわけで,見ている側も,進化したAIとどうつき合って観戦するべきかが問われているように思いました。いずれにしても,このAIの表示がなければ,ハラハラドキドキ,そして,今回の大逆転も,これほど楽しくおもしろく感じなかったことでしょう。
 しかし,対局者は,当然,AIがどう示しているかをまったく知らず,あれだけの勝負をしていることをしっかりと認識しなければなりませんし,AIが悪手と認定した手を指した後ですぐにシマッタという表情になり,相手もまた表情が変わるという形勢判断というか,動物的勘がすごいです。そして,たとえAIの示す「正解手」を指せなかったとしても,あるいは「悪手」を指したとしても,それはすべて人間の能力の限界に挑戦した結果であるということを忘れてはなりません。
 今回は,難解な終盤戦ではAIさえ迷走気味であり,それを超える人間同士の勝負こそがプロの将棋を観戦する醍醐味だということをまざまざと見せつけられました。また,解説者の広瀬章人八段の人間の思考としての裏づけのある的確な説明も大したものだと,私は改めて敬服しました。
 それにしても,今回の2局は,ともに,あの局面が逆転するのか! と感動したものです。こういうことがあるから,将棋を見るのはやめられないのです。

◇◇◇


◆◆◆
過去のブログの一覧は ここ をクリックすると見ることができます。

💛

DSC_5226 qw e raaabbb

 2020年9月27日のブログに「今後「不良老人」はいかに生きるか⑥-塞翁が馬の2020年」と題して,
  ・・・・・・
 (2020年)1月。やがて来る不安な将来もまだ予感できなかったころ,昨年に続いて,私は朝日杯将棋オープン戦の名古屋対局で,藤井聡太・現二冠の対局を観戦しました。その後,当時七段だった若き天才棋士はタイトルをふたつも獲得し,再び時の人となりました。私は,タイトルを獲得するまでは,ということで熱を入れて応援していたのですが,そろそろそれも卒業したいと考えています。私の性格では,将棋も相撲もそうですが,勝負ごとに対して熱をあげて応援するのは,ひいきの人が負けたときに疲れ落ち込むだけで楽しむことができないのです。私は勝負ごとの観戦を趣味にするのは不向きなのです。
  ・・・・・・
と書きました。

 それ以降,私は4か月余り,将棋を見るのをやめてしまいました。ちょうどそのころ,藤井聡太二冠は王将戦の挑戦者決定リーグでは苦戦し,B級2組の順位戦では全勝を続けていたようです。また,NHK杯将棋トーナメントは木村一基九段に公式戦初の負けを記し,その一方,銀河戦では優勝をしました。
 藤井聡太という棋士の強いのは,本人はすべて全力投球をしているのでしょうが,たまに負けても重要な対局だけは星を落とさないということなのです。これまでの対局で,唯一,後に響くという意味で負けてはいけないのに負けたのは,2019年2月5日のC級1組順位戦,対近藤誠也・当時五段との一戦だけです。
 そして,2021年の1月に,再び朝日杯将棋オープン戦の名古屋対局がありました。そこで,私もそろそろ将棋の観戦に復帰することにしました。ただし,自粛しているわけではないのですが,今年は観戦に行く気にならなかったで,ABEMAで見ました。今日の1番目の写真は昨年のものです。
  ・・
 私が少し冷却期間を置いたのは将棋を観戦するのに疲れてしまったためでした。将棋に限らず,この時期から,私は自分の楽しみであるほとんどのことに対して冷却期間をつくりました。それはある思いから「精神的な断捨離」をすることにしたのが理由でした。それはまた,本当に好きなことなら,そのうちに再びその気になるだろうと思ったからです。
 そしてやはり,昔から好きだったことは順に復活しました。新装開店という感じでしょうか。

 さて,今回の朝日将棋トーナメントの豊島将之竜王との対局は,画面の表示では,途中まで藤井聡太二冠の評価値がよく,一時は81パーセントに達したのですが,3七角と打った時点で逆転してしまいました。しかし,その直後,8六歩,8七歩という連打が「コンピュータ越え」の手筋で,8七歩を豊島将之竜王が同金と取ったのが悪い手で再び優勢となった,という流れのように,AIは分析していました。
 私は,以前ならそれで満足していたことでしょう。しかし,冷却期間を置いてリニューアルした私が感じたのは,確かに評価値だけを見ればそういうことなのでしょうが,人間の考えることというのは,それでは割り切れないということでした。こころのないAIが判断した手がこころのある人間には最善とは限らないということです。
 そして,8六歩という,AIが第一候補してあげていなかった妙手が指されたとき,瞬間にその意味を理解して感動し,その感動を視聴者に伝えた解説の高見泰地七段はすごい,と思いました。私もそこに感動しました。こういう解説があるからこそ楽しめるのです。そしてまた,豊島将之竜王も人間だったと思いました。

 冷却期間に思ったのは,つくづく私は将棋が好きなわけではないということでした。将棋が好きなわけではなくて,昔から,ある特定の棋士の将棋が好きなだけなのです。それは,今から50年ほど前なら升田幸三実力制第四代名人,その後は米長邦夫名誉棋聖,そして,それに続いて佐藤康光九段,今は藤井聡太二冠です。それ以外の棋士の将棋にはおよそ興味がないのです。こういうのは,本当の将棋好きというのとは違うのでしょう。
 と,ここまで書いていて思い出したことがあります。
 50年ほど前,将棋は新聞の将棋欄で見るくらいしか方法がありませんでした。そこで,A級順位戦で対局する升田将棋だけを見たさに朝日新聞を購読していた私は,対局者が升田幸三・当時九段でなければ,ほとんど将棋欄は読み飛ばしていました。しかし,升田将棋以外で2局,対局者がだれだったのは忘れてしまいましたが,強烈に記憶に残っている対局があるのです。そのひとつは,相横歩取りで,後手が7六飛と歩を取り返したときに当時の定跡であった7七銀ではなく7七歩と打って,意表を突かれた後手はその後の指し手がわからずあっという間に負けてしまったもの,もうひとつは,角換り腰掛銀で,軽率にも3二金を上がらずに6三銀と上がったことで苦戦し,わずか数十手であっけない終局を迎えたものです。
 ずいぶんと昔のものなので,正確には思い出せないのですが,おぼろげな記憶からイメージした図面を作ってみました。今となってはどこかに埋もれてしまっている対局ですが,当時はA級順位戦の将棋でも,今と違って,時折,とんでもない駄作がありました。それは,いかにも人間臭く泥臭く,ある意味,魅力的でした。
 将棋に限らず,半世紀前の日本は,何もかも,そんな状態の国でしたが,いまのような,規則規則で縛られる時代,何でもコンピュータで緻密に計算される時代,人間が機械のようになってしまった時代に比べたら,別の意味でよほど楽しかったこともたくさんありました。それも今となっては懐かしい思い出です。


◆◆◆
過去のブログの一覧は ここ をクリックすると見ることができます。

💛

2020-01-19_16-36-12_625 2020-01-19_02-01-53_5202020-01-19_04-42-27_400DSC_5233

 2年前に見た朝日杯将棋オープン戦ですが,今年,2年ぶりにまた見にいく機会があったので,観戦しました。
 チケットの発売日を忘れていて,というか,もう1回見たからいいやと思っていたのですが,発売日当日,ツイッターで発売開始5分後に知って,試しにサイトを開くとすでにほとんどが売り切れでしたが最後列の4枚だけ残っっていたので,購入し(てしまい)ました。
 この日は,ベスト16からのトーナメントで,参加棋士が4人。午前中に2局あって勝者が午後に1局,これに勝ち残るとベスト4進出になります。2年前とは会場が異なっていて,今年は朝日新聞名古屋本社の15階にある朝日ホールでした。ひと部屋が対局場でもうひと部屋が解説会場となっていました。対局会場はひな壇になっていてい,午前中の2局はひな壇の両端で同時進行,両方とも観戦することができました。ただし,2年前は対局後に解説会場にも入れたのですが,今年は,対局会場か解説会場のどちらかしか入れませんでした。
 このように,毎年,試行錯誤状態なのですが,次第に工夫が実り見やすくなってきました。ただし,今年は解説会場が狭く,もう少し広いといいなあ,と思いました。
 朝日杯将棋オープン戦は,持ち時間が40分で使い切ると1手60秒,というのが絶妙で,対局が終了するまで約2時間,しかも,1手30秒とはえらく異なって,考えることができるので,内容が濃くなります。どうやら,藤井聡太七段にはこの持ち時間が向いているらしいのです。

 今年の藤井聡太七段の対戦相手はかなりの難敵で,さすがに朝日杯オープン戦の3連覇は無理だろうと思っていました。そこで,午後の2局目までいけるのだろうかと,ほとんど期待もせず,会場に向かいました。
 藤井聡太七段の1局目の相手は菅井竜也七段で,これまで1勝2敗でした。菅井竜也七段の粘りを打ち破れるかが勝負です。はじめ,少し優勢かな,と思っているうちに,早指しで何やらこちゃこちゃとやられているうちになんかごまかされたようになって,気が付くと不利になっていました。こりゃ2局目はないなあ,と思っているうちに形勢が逆転して,ついに勝利しました。ただし,帰宅後にコンピュータの将棋ソフトで調べてみると,会場で思っていたほど不利でもなかったようでした。それにしても,最後の盛り上げはかなりのものでした。
 2局目は,1局目に三浦弘行九段に勝った斎藤慎太郎七段とでした。斎藤慎太郎七段に対してもこれまで1勝2敗と苦手としています。それもはじめに2連敗,つい先日にやっと1勝をあげたという状況です。この将棋はねちねちと序盤が長く,相撲で言う指し手争いみたいな感じになっていたのですが,そのうちにわずかなスキを捉えて藤井聡太七段が有利となりました。最後は,いつものように受けても勝てるほど優位だったのに,1手勝ちを読み切って攻めていって,そのまま押し切りました。対局者はわかっているのでしょうが,見ているほうはハラハラしました。
 それにしても,以前にも増してさらに強くなったものだと思いました。こうして,これまで分が悪かった相手に対しても堂々と勝てるようになってきて安定感もねばりもあってすごいもんだと思いました。よいものを見ました。

DSC_1357DSC_1099DSC_1259DSC_1095

 朝日杯将棋オープン戦の名古屋対局2日目。私は2日ともS席のチケットが予約できたので,連日の観戦でした。
 今日は昨日と同じ2列目だったのですが,昨日と違って今日は左から12番目だったので先手番の棋士の表情がよく見える席でした。1列目は主催者様のお席のようで,1列目の真ん中に中部電力の社長さんがお座りになっておられました。

 午前の1回戦は指定席のある広いほうの対局場が藤井聡太四段対澤田真吾六段戦,自由席の狭いほうの対局場が佐藤天彦名人対永瀬拓七段戦で,この勝者同士が午後の準々決勝で対戦します。
 そこで,1回戦で藤井四段が勝ち進むと,午後もまた観戦できるというわけで,理想としては,午前に勝って午後に佐藤名人と対局をする,ということだったのですが,そんなうまくいくのかいな? と思っていました。
 が,そうなりました。
 相変わらず,私は運がいい男です。

 まず1回戦です。
 現われた藤井四段と澤田六段は澤田六段が先手で,当然昨日の羽生竜王のような堂々としたオーラ,という感じではなくて,若者らしい感じで,一手目から考えることもなく,どんどんと手が進みました。
 昨日との違いは報道陣で,昨日は主催新聞や囲碁・将棋チャンネル,そして,AmebaTVくらいのものだったのですが,今日は,様々な放送局をはじめ,地元紙誌やらスポーツ紙とものすごい数でした。
 藤井四段はおよそ中学生らしくないのですが,足元を見るとスニーカーだったのが,まあ,中学生らしいというか,ほほえましい感じでした。
 局面は角換わりになりました。澤田六段が居玉で攻めてきたので藤井四段が有位だと思っていたのですが,澤田六段の2二歩という緩手1手のスキに藤井四段があっという間に攻め潰しての完勝でした。
 藤井四段の将棋は昨日の羽生竜王の将棋とは違って主体性があり,若者らしく積極的でその対比が面白いものでした。しかし,羽生竜王も藤井四段も,相手のわずかなスキを見逃さず優位を築いてしまうというのは共通で,プロの将棋というのは,盤面のわずかのスキが命取りになるというのを見ていて実感しました。私はこのことが一番印象に残りました。

 午後の準々決勝は期待どおり佐藤名人との対局になりました。しかも,藤井四段の先手番で,私はしっかりと表情がみられる席でした。
 戦法は横歩取りで,はじめっから少しずつ駒組の段階で藤井四段が指しやすい感じになりました。
 途中,手待ちで佐藤名人が2三金と上がったのが失敗で,そのスキにあっというまに飛車が攻められて藤井四段の駒得になったときは,ひょっとしたら勝つかな? と思いました。
 私が驚いたのはその後で,私のようなへぼはタダでとれる飛車を取るという局面で,飛車なんてもう用済みだとばかり,アッという間に寄せ形を作ってしまったことで,こういうところがプロなんだなあ,と思いました。すごいものです。しかし,どうして,生まれてわずか15年でこんなことができるようになるのでしょう。そのことの方が不思議でした。
 最後は,一手のミスもなく寄せきってしまいました。

 それにしても,夢のような2日間でした。そもそも,羽生竜王と藤井四段の姿を間近にみられるというだけでも感激ものなのに,両者とも2連勝,そしてまた,藤井四段は公式戦ではじめてタイトルホルダーに勝つ,という歴史的瞬間を目撃できたということです。「名人に香車を引いて勝つ」と物差しに書き残して家出をしたのが升田幸三実力制第四代名人ならば,「名人をこす(の上になる)」と小学校の作文に書いた藤井聡太四段は,ついにその願いを果たしました。
 何事も一流というのはすごいものです。もっと若いころにこういう機会があったなら,私の将棋の実力も今よりも少しはマシだったのに,と思ったことでした。

◇◇◇
藤井将棋の魅力-盤面全体に宝石をちりばめたよう

DSC_1031DSC_1037DSC_1053IMG_4295

 朝日杯将棋オープン戦の名古屋対局が1月13日と14日にあって,これまでに勝ち残った棋士のうち8人が集結して,4人ずつ2日間にわたって,午前中に2局,勝ち残った2人で午後の準決勝が行われるという話がありました。運がいいというか,よすぎるというか,勝ち残っている棋士のなかには,1日目には羽生善治竜王が,2日目は時の人・藤井聡太四段が登場するということになったので,2日とも見にいくことにしました。
 何ごとも,運は自ら行動して掴むものです。こんな機会,おそらく二度とありますまい。
 対局場は午前はふたつあるのですが,ひとつは広い部屋で全指定席,もうひとつは狭い部屋で自由席ということでしたので,指定席のうちもっとも棋士に近いS席を前売りで手に入れました。1日目の広い部屋に登場するのはもちろん羽生竜王なのですが,2日目は広い指定席のほうが藤井四段で,もうひとつの狭い自由席のほうが佐藤天彦名人というのが,なんともはや,という感じです。しかし,人気を考えると,これしか方法がないのをだれもが納得することもまた,不思議なことでもあります。
 ということで,今日は1日目が終了した昨日の様子について書きます。

 私の席は前から2列目の左から5番目でしたが,羽生竜王が2局とも後手番だったので,ちょうど表情が見える席でラッキーでした。
 手の震えもそのまま見えました。
 午前の1回戦は対戦相手が高見泰地五段でした。
 戦法は後手番の羽生竜王が角道を止めた四間飛車ということで,これは40年前に流行した戦いです。そのころと違うのは,角道を止める振り飛車というのは,居飛車穴熊の亡霊を見ながら序盤を進めなくてはならないということなので,藤井システムですが,それでも,ちょっと無理して,ともかく先手は穴熊に組み上げました。羽生竜王が攻めを誘って手待ちをしている間に先手は歩を突き捨ててやや無理攻めに攻めていったのですが,1手ミスったときに鮮やかに羽生竜王の端攻めが決まって完勝しました。強いものです。
 羽生竜王の将棋というのは,相手に乗っかって指し進めていって,相手にわずかでもスキがあれば,それに乗じて攻め潰す,というものなので,主体性はないのですが,いわゆる横綱相撲です。白鵬に見せてやりたいものです。1局目はこれが見事に決まりました。

 午後の対局は,午前に糸谷哲郎八段戦で勝ち上がった八代弥六段戦でした。
 戦法は,また後手番になった羽生竜王が,これもまた午前と全く同じ角道を止めた四間飛車でした。
 若手は相がかり,あるいは相横歩取りの最新形を目指して,先手番で2六歩と突くので,それを避けるにはこうした振り飛車になるのかな? と思いました。公開対局で最新形を指すのは,おそらく羽生竜王には骨が折れるのでしょう。
 今回は先手が穴熊ではなく急戦を挑んだので,40年前の将棋と同じ形になりました。この定跡を作った青野九段と米長永世棋聖の住んでいた場所にちなんで鷺宮定跡といいます。そのころはこんな将棋ばかりでした。そして,細部まで定跡ができたのですが,結局,今同じものを指すと無難な将棋に落ち着くのが不思議なことです。将棋の定跡なんて,進化しているのやらそうでないのなら…,結局は流行というくくりだけなのかな,と感じました。
 途中,羽生竜王が馬を作られて少し不利っぽかったのですが,うまく指して駒得になったあたりでは優位になったかな? と思いました。そして,1手すきやら詰めろやらで先手玉を攻めていった辺りでは勝ちだと思ったのですが,おそらくどこかでミスがあって,詰めろがほどけてしまったあたりでは逆転ムードでした。その後はいわゆる泥試合となっていったのですが,後手玉を攻める手がなくなったあたりから,再び羽生竜王が優勢になって,最後は勝利しました。対局時間3時間164手の熱戦でした。素晴らしい対局を見せていただいたものです。

このページのトップヘ