NHKのドラマ「55歳からのハローライフ」もいよいよ最終回です。
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出版社をリストラされた因藤茂雄(イッセー尾形)は、ホームレスに転落するかもしれないという恐怖と隣り合わせで生きている。60歳の身体にムチをうち、水道工事の誘導員をしていたある日、中学時代の親友だった福田(火野正平)に声をかけられる。福田はこの辺りの高級住宅街で暮らしているという。だが、1か月後、因藤は瀕死の福田から呼び出される。福田は山谷のホームレスだったのだ。当惑する因藤に、福田は"最期の望み"を託すのだが…。
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私は,この番組を見る前に,まず,お金というものについて考えてみました。
現在,朝日新聞に夏目漱石の「こころ」が連載されていて,その関連の特集で,7月5日土曜日の紙面に「思索できる喜び『乱』の時代に」と題して,山藤章二さんが次のように書いています。
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「高等遊民」として明治大正あたりは,最高学府に在籍あるいは卒業した人物は明らかに特権階級に属していた。彼らは一般大衆のようになりわいに就くことが目的ではなく「考えること」を専らとした。
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確かに,この時代の知識人にとって,お金を稼ぐというなりわいは,現在とは違ったものだったのでしょう。しかし,知識人でなくても,誰にとっても,お金というものの意味合いは,現代人とはずいぶんと違っていたのではないでしょうか。
現代社会では,電気・ガス・水道,車のガソリン,電話代など,お金がなければほとんど何もできません。しかし,今ほど電化製品もなく,水道は井戸水に代わり,ガスは薪であった時代,車も電話もいまほど普及していなかった時代,そして,食料の多くが自給自足であった時代,生きるために必要なお金というものは,今よりもずっと少なかったはずです。
その代わり,それに変わる労働が必要でした。女性は,1日中家事に追われていました。
それに比べて,現代社会では,便利さを手に入れるために,何もかもにお金が必要になりました。
しかし,人が生きるということで一番大切なのは精神的な幸せであるという意味で考えると,お金は,本当はどれくらい必要なものなのでしょうか。一度,原点にもどって考えてみるのも悪くないかもしれません。
きょうのお話は,これまでのものに比べて,状況が深刻で,救いがありません。ちょっと現実離れしていて(いや,これこそが現実か!),私も,なさけない男たちだ,などとは書きようがありません。
福田という男もホームレスになりたくてなっちゃったわけでもないだろうし,そうなってしまった事情があるようなのです。しかし,本当は,こんなになるまでになんとかすべきだったんですが,本人のプライドがそれを許しませんでした。そういう意味では,この人も生きるのが不器用なのです。
因藤という人も,腰を痛めて仕事が辛く,はじめは気の毒な人だと思ったのですが,暮らし向きとは反対に,携帯電話を持っていたり,ミネラルウォーターを飲んでいたり(この人には「水こそお金よりも大切なものだ」という話の伏線なのですが)と,チグバグな生活をしています。それに,自分のことで精一杯なのに,福田の世話をやく。きっとこの人の「人の良さ」が,今日の状況を作ってしまったのでしょう。
だから,その人のよさが,この人の救いになればいいなあ,と思って見ていたのですが,結局,この人は,自分が友人に何かをしたということで,自分のプライドが満たされて,生きる気力をとりもどすことができた,というのがお話の結末でした。
しかし,このことで,因藤さんの腰痛が治ったわけでも,リストラの危機がおさまったわけでもないのです。ただ,彼は生きるのに一番大切な「やさしさ」を手に入れました。きっとこのやさしさがあれば,妻と息子さんがこれからも守ってくれることでしょう。
この「55歳からのハローライフ」は,人が生きるのに一番大切なのは,地位でもお金でもなく人のこころ,そして,人のこころを結びつけるのはやさしさなんだよ,というお話だったのです。
因藤さんと福田さんが乗っていたバスの中で,前回のお話に出てきた下総さんが,乗客として,やさしい男になってでてきました。かっこよかったです。
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「55歳からのハローライフ」-生きるのが不器用な人たち③
「55歳からのハローライフ」も第3回。
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定年退職してからずっと家でテレビに愚痴をこぼす夫(浅野和之)に耐えられなくなった55歳の中米志津子(原田美枝子)は離婚を決意する。夫とは違うタイプの男を求め,結婚相談所に登録して見合いを繰り返すが,思うような相手は一向に見つからない。優良会員限定の合コンパーティにも招待されるが,気おくれして退場してしまう志津子。会場のホテルのバーに入ると,そこで声を押し殺し独り泣いている30代の男を見つけ…。
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というのが,番組のホームページにあったあらすじですが,今回もまた,定年退職後の,しょうもない人生をおくる旦那なんですか! と思ってしまいました。
本当に,日本の男っていうのは,仕事以外にな~んもないんですかねえ。だったら,仕事に何か人生をかけたものがあるのかといえば,そうでもなさそうだし。でも、きっと,それは男がいけないというのじゃなくて,若いころから仕事以外に何もしてこなかった,というより,する暇を与えてもらえなかった,というこの日本の社会に問題がありそうです。
それは,定年退職間ぢかの男に限ったことではなくて,学生さんだって,部活・部活でほかにな~んもしていない。若い人が電車の中で携帯いじっているって,問題にしている人もいるけれど,実際は何してるかというと,ゲームしてるか動画みてるだけだし…。
本来は元気よく外で遊ばなくてはいけない子供たちなのに、少しでも時間があれば、意味のない塾通いをさせる母親は、そんな男の子の行く末がな~んも楽しみのない旦那だっていうことに気づいていないのかなあ。
話が脱線しました。そうそう,物語です。
離婚を決意して違うタイプの男を求め…,という「違うタイプの男」に,もし,若いころにめぐりあっていたとしたら,それはきっと安定した生活とは無縁だろうから,はたして,そのときには,女性はそんな男と結婚したのかといえば,きっとそうじゃあないだろうなあ,なんて,番組を見るまでは思っていました。
しかし,ドラマを見て,私には,この物語の場合は,旦那もそうですが,それよりも,この女性こそが人間的につまらないと思えました。しょうもない男性がたくさん出てくる(それにしても,出てくる男がヘンな人ばかりで,女性もかわいそう…)から,こういうお話の展開になるのだろうけれど,この女性にもそれほど魅力があるとも思えませんでしたから,きっと,この女性は,若いころにも,ときめいた恋愛をしたことがなかったのでしょう。だから,まだ,恋に恋している段階なのです。精神的には10代の女性のようです。
物語は,突然,展開します。やっと物語らしい出会いがはじまりそうになります。
しかしながら,若い男にとって,(かなり)年上の女性は,母性の対象にこそなれ,それだけのものです。
女性は,映画「ひまわり」を見て,若い男性に語るのですが,これは,本当は女性が自分自身に語っていること,そして,恋に恋していた自分にやっと気づくのでした。この物語の女性は,最後に,それを悟ることができたのが救いでした。
ただし,私には,この物語には物足りなさを感じました。どうして,元旦那が,退職後に,また,再就職をすることにそれほどの意味を持つのでしょう(経済的に… とはいっていましたが)。人生の目的は仕事ではありません。それが,その理由です。
「55歳からのハローライフ」-生きるのが不器用な人たち②
NHK総合のドラマ「55歳からのハローライフ」。第2話のあらすじは,次のとおりです。
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55歳の高巻淑子(風吹ジュン)は,夫(松尾スズキ)が定年退職して,ひとり息子も海外赴任すると,念願だった柴犬を飼うことにする。近所の愛犬家とも交流するなかで,淑子は義田(世良公則)というデザイナーの男にほのかな恋心を抱く。しかし,柴犬は心臓肥大の難病にかかってしまう。淑子は犬嫌いの夫と喧嘩して,愛犬と共に三畳間のクローゼットに閉じこもる。寝食を惜しんで懸命に介護にあたる淑子。見かねた夫も介助をし始めるのだが…
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風吹ジュンさんはこの番組の宣伝もかねて,土曜スタジオパークに出演されていました。
若き日にアイドルとして登場した風吹ジュンさんももう62歳なのだそうです。この番組で,若いころは,自分を高めたり認めてもらうために,大変な思いをするけれど,この歳になると,楽しいことばかり,という内容のお話をされていましたが,まさに,同感です。
その,風吹ジュンさんが主人公の第2回の内容は,ペットです。
実際,ペットを飼うというのは,好きな人とそうでない人の違いが大きく,好きな人同士が結婚すればよいのでしょうが,この物語のように,犬嫌いの夫の元で,犬を飼うというのはなかなか大変なものでしょう。
私はペットは苦手なので,ペット好きの人とは結婚できないなあ,と若いころに思ったので,このお話のようなことは私にはあり得ないのですが,世の中には,歳をとったときにこうした問題を抱える夫婦は結構多そうです。これだって,第1回のキャンピングーと同様,長年の夢だったものを退職後に実現しようとして,夫婦の間の夢の違いが問題になったということと,本質的には同じです。
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旦那は誰が読むとも思えないブログを書き…,には笑ってしまいましたが,妻は夫の嫌いな犬を飼い,一緒にホームパーティに出て… いわば,仮面夫婦というやつですね。
犬が病気になって,いろんなことがあって,そして,そうしたことを通して,お互いの気持ちがわかってくる…,まあ,そんなあらすじは見なくてもわかります。しかし,口下手な夫が,自分の気持ちを言えず,というのは,55歳というよりも,もう少し歳をとった人に多い日本男子の姿ですね。
でも,もう少し,旦那さん,奥さんにやさしくてもいいんじゃないかなあ。
このお話には,第1話に出てきたカップルがちょっぴりでてきて,物語が繋がっているということがわかります。この2組の夫婦は同じマンションに住んでいるのですが,暮らし向きが少し違っているように見せようとドラマの美術さんたちが工夫されたそうです。
隣の芝生は青いといいますが,外見から見ると仲がよくて幸せそうでも,みんないろいろあるんだな,と思わせるところが,このお話で一番いいたいことだったと,私は思いました。
「55歳からのハローライフ」-生きるのが不器用な人たち①
私は就職してからずっと,56歳で早期退職をするつもりで計画的に生きてきたのだけれど,上司のパワハラで,思いがけなく51歳で退職をしてしまいました。その後は,セミリタイヤを決め込んで,好きなことをして生きてきました。その結果,これまでに書いたように,私は,自由に生きるのには,贅沢をする必要などなくて,精神的に満ち足りることが一番大切だと思うようになりました。
私が時々行く海外旅行を贅沢だという人がいますけれど,そういう人に限って,実際は,私が海外旅行をするお金の何十倍ものお金をつぎ込んで外車を買っていたり,多額の住宅ローンを抱えていたりするのです。価値観や生き方は人それぞれですが,時間やお金の使い方もまた同じことなのです。他人と比べる必要はありません。自分は散財しておいて人を羨むのはお金の使い方が間違っているのでしょう。
NHK総合で放送している「55歳からのハローライフ」というドラマは,村上龍さんの書いた本をもとにした5編の作品です。私は,原作は読んだことがないので,このドラマの出来不出来とかいうことでなくて,ドラマに描かれた人たちについて,私が思う感想というか評価を,生意気にも書いてみたいと思います。所詮,物語だから,現実以上に典型的な人物像が描かれているわけで,早期退職者の先輩である私にはこういうことを書く資格が少しはありそうだしね。
第1話の主人公は,58歳で早期退職をしてキャンピングカーで自由に旅をするという生き方を家族に反対されて,もう一度再就職を目指す,という人の話でした。
番組のホームページには,次のようにあらすじが書かれています。
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58歳で早期退職した富裕太郎(リリー・フランキー)は「キャンピングカーを買って旅に出る」という老後の計画を妻(戸田恵子)から拒否されます。
既に手付金だけは支払っていたので,富裕の時間も宙ぶらりんに。仕方なく再就職先を探すことにしますが,現実は想像以上に厳しい。若いキャリアカウンセラーから無能さを指摘され,相談に行った取引先の社長からも相手にされず,次第に心身のバランスを崩していき...。
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この物語を見て,皆さんはどう思いましたか。私は,ドラマで描かれていたこの主人公の贅沢な暮らし向きから考えて,主人公の行動は矛盾していると思いました。
一言でいうと,まったく共感できない。
もし,早期退職をして,そういった生き方をしたいのなら,それまでの生活をもっと質素にして計画的に生きればよかったのです。ここに描かれている主人公は,仕事人間が退職間近になって,これまでの自分の人生がこれでよかったかと改めて考えてしまう,とか,これまで顧みなかった家庭や妻なのに,勝手に自分の将来の夢を押しつけてしまう,とかいう,つまり典型的な日本の仕事人間の不器用な生き方そのものです。
若い人たちにもその予備軍はいっぱいいます。
ゴルフに趣味のコーヒー,それに,贅沢なマイホームを手に入れるための住宅ローン,それに子供の結婚資金の心配。そんなことは,早期退職をして,自由に生きようとする人のすることではないのです。これまでそんな人並み(以上の)の生活をおくっておいて,さらに早期退職をして自分の夢を実現しようなんていうのは,虫が良すぎますし,考えが甘すぎます。
それに,一旦は辞めておいて,家族に自分の夢を反対されたからといって,また,再就職をめざすなんて,全くやっていることが矛盾しています。実際,この主人公,仕事一筋に生きてきたっていっても,何の能力もないじゃない。組織の中では,自分の地位を自分の力と勘違いしてやたらと威張っているくせに家庭で居場所のない人,たくさんいます。
アメリカには,リタイヤ後はキャンピングカーでアメリカ中を夫婦でまわっている人を多く見かけるけれど,それば,国が広いこと,見どころがたくさんあること,キャンピングカーを停めて1泊する場所が整備されていること,などがきちんとしているからです。そんなことも知らないで,狭い日本でキャンピングカーを買ってどうするの? と私は思います。そういうこと自体,この主人公は何もわかっていないわけなのです。いわば,世間知らずです。
この物語では,そういうことすべてを,このキャンピングカーが象徴しているわけです。
せっかく退職してもまだ仕事に未練がある,というのも,私のまわりにもたくさんいる,定年退職してもすることもなく,いつまでも再任用にこだわる仕事人間の不器用な生き方そのものです。まわりからは,煙たがられていたり,迷惑がられていたりするのに,それを気づいていないのは本人だけ…。私も街に出たとき,せっかく退職したのに,また満員電車に乗って第2の職場に向かう知人にばったり偶然会うことがよくあるのですが,そういうとき,この人仕事以外にすることないんだろうか? と憐れんでしまいます。
この物語の冒頭に出てくる,主人公の友人の,退職後はカナダに移住するという夢もまた,文字通り夢物語です。
カナダへ行く,なんていうことは,別に移住などしなくても行きたいときに行くだけのことです。第一,子供のいるところに身を寄せるなんて,子供が迷惑… 旅慣れた人なら,そう考えます。旅なんていうのは慣れている人には簡単にできることで,敷居が低いのです。だから,こういう夢は,ツアー旅行しかできない,自分では簡単に旅ひとつできない人が考えることなのです。
旅にあこがれたり,新しい生活にあこがれても,なにも移住まですることはないのです。旅は非日常であるから旅なのであって,住んでしまえば,どこでも同じ。それに老後は,病気をしたときのこととかを考えると,所詮,日本人は日本人。そういうリスクを冒してまで移住までする必要もない。私はそう思います。
この主人公たちの生き方というのは,所詮,私のまわりにいる,私と同じくらいの年齢の,これまでざんざん贅沢を楽しんで来たり,無計画に生きてきたり,職場で上司面していたりしたくせに,本当は生きるのが下手で,仕事を辞めたり旅に出たりする勇気すらない,そのくせ,私の生き方を羨んでいるような人たちと同じなのです。
きっと世の中にはそんな人が多いんだろうなあ,って,このドラマを見て,私は改めて思いました。58歳にもなって,なさけないことです。