しない・させない・させられない

Dans la vie on ne regrette que ce qu'on n'a pas fait.

USA50州・MLB30球場を制覇し,南天・皆既日食・オーロラの3大願望を達成した不良老人の日記

タグ:藤井聡太四段

 大相撲も将棋も,一時いろんな問題が起きてファンが見放したのですが,昨年は,大相撲は稀勢の里関が横綱に昇進したりと明るい話題が続き,将棋もまた同様に明るい話題が起きて,同じようにV字回復をしました。ところが大相撲は再び様々な問題が起き,世間の話題もそればかりとなりました。おそらく,今年はその影響がじわりじわりと出てくることでしょう。
 それに対して将棋はずっと明るい話題続きです。
 藤井四段のひふみん(加藤一二三九段)とのデビュー戦での勝利からはじまり,その後29連勝。そしてひふみんの引退,羽生永世七冠の誕生と,佐藤康光九段が会長になって以来,いいこと続きです。ちょうどそんな時期にAmebaTVが放送を開始したことがまたタイミングがよく,それまでは観戦する方法があまりなかった将棋がずっと身近なものになりました。
 
 将棋の竜王戦といえば,「あの」三浦九段の事件が起きたのがちょうど1年前の竜王戦だったのを思い出しました。昨年の竜王戦七番勝負は惨憺たる結果でした。それがわずか1年前のことだとは,とても信じられません。もう,遠い昔のような気がします。それを考えると,1年という月日は長いのか短いのか…? とても不思議な気がします。
 私も公開対局で観戦をしたり,AmebaTVで対局を見たりしているのですが,まあ,何と将棋というのはおもしろいものだろうとはじめて思いました。それに気づかなかったのは,これまで,新聞の将棋欄とNHKEテレの将棋対局でしか見る機会がなかったことが原因なのでしょう。このように,何ごとも,上手な見せ方というのが大切だということです。旅と同様,自分で体験することが大切なのです。また,聞き手を務めている女流プロもこれほど人材がいたとは。これまで,こうした人たちの才能を眠らせていたことが残念でなりません。

 先日の朝日杯将棋オープン戦のニュースがさまざまな番組で流れました。そのなかで,テレビ朝日の「サンデーステーション」という番組での取り上げ方はひどいものでした。この番組では「(藤井四段が)デビュー以来29連勝をしたあとで,その後わずか半年あまりで11敗するなどプロの壁にもがいていました」というナレーションが流れました。それは間違いではないのですが,あれではその後11連敗したかのような印象を与えます。
 実際の成績は,○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○●○○●○○○●○○○○●●○●○○○○○○○○○○○●○●○●○○●○●○○○
というわけで,通算58勝11敗,29連勝後は29勝11敗で,決して悪い成績ではないし,もがいているわけでもないのです。
 報道というのは,概してそんなものです。結局,はじめにどういうふうに話題にするかを決めておいて,都合のよい面だけを取り上げていくわけです。取材も,多くの人にインタビューをして,話題になる部分だけを切り取って報道しているのです。
 また,竜王戦の就位式を伝える日刊スポーツの記事は次のようでした。
  ・・・・・・
-羽生竜王は本気「手ごわい」藤井四段に視線合わせず-
 将棋の第30期竜王戦を制し,同時に「永世7冠」の称号も得た羽生善治竜王(47)の就位式が16日,都内のホテルで行われた。就位式の前には,史上最年少プロ,藤井聡太四段(15)とそろって会見。両者は2月17日に行われる第11回朝日杯オープン戦の準決勝で公式戦初対決するが,羽生は「手ごわい存在」と早くも警戒していた。
 羽生が視線を合わせない。右隣に座った32歳下の最年少棋士に対し,終始,体を左に30度ほど傾けていた。撮影で握手を求められても,右手を差し出しただけ。目線はカメラマンの方に向け続けた。
  ・・・・・・
 この就位式の様子はYouTubeで見ることができますが,それを見ると,この記事とはまるで違う印象を持つと思います。実際は,羽生竜王が先輩棋士らしく気配りをして,藤井四段をエスコートしていました。この記事は,なんか,ボクシングやプロレスの見出しみたいです。
 今は,いろんな映像を直に見ることができるからこういうことがわかります。
 私は,今年もまた,そうした報道に泳がされずに,自分の目で見,耳で聞いて,自分で判断していきたいものだと改めて思うことでした。

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 朝日杯将棋オープン戦の名古屋対局2日目。私は2日ともS席のチケットが予約できたので,連日の観戦でした。
 今日は昨日と同じ2列目だったのですが,昨日と違って今日は左から12番目だったので先手番の棋士の表情がよく見える席でした。1列目は主催者様のお席のようで,1列目の真ん中に中部電力の社長さんがお座りになっておられました。

 午前の1回戦は指定席のある広いほうの対局場が藤井聡太四段対澤田真吾六段戦,自由席の狭いほうの対局場が佐藤天彦名人対永瀬拓七段戦で,この勝者同士が午後の準々決勝で対戦します。
 そこで,1回戦で藤井四段が勝ち進むと,午後もまた観戦できるというわけで,理想としては,午前に勝って午後に佐藤名人と対局をする,ということだったのですが,そんなうまくいくのかいな? と思っていました。
 が,そうなりました。
 相変わらず,私は運がいい男です。

 まず1回戦です。
 現われた藤井四段と澤田六段は澤田六段が先手で,当然昨日の羽生竜王のような堂々としたオーラ,という感じではなくて,若者らしい感じで,一手目から考えることもなく,どんどんと手が進みました。
 昨日との違いは報道陣で,昨日は主催新聞や囲碁・将棋チャンネル,そして,AmebaTVくらいのものだったのですが,今日は,様々な放送局をはじめ,地元紙誌やらスポーツ紙とものすごい数でした。
 藤井四段はおよそ中学生らしくないのですが,足元を見るとスニーカーだったのが,まあ,中学生らしいというか,ほほえましい感じでした。
 局面は角換わりになりました。澤田六段が居玉で攻めてきたので藤井四段が有位だと思っていたのですが,澤田六段の2二歩という緩手1手のスキに藤井四段があっという間に攻め潰しての完勝でした。
 藤井四段の将棋は昨日の羽生竜王の将棋とは違って主体性があり,若者らしく積極的でその対比が面白いものでした。しかし,羽生竜王も藤井四段も,相手のわずかなスキを見逃さず優位を築いてしまうというのは共通で,プロの将棋というのは,盤面のわずかのスキが命取りになるというのを見ていて実感しました。私はこのことが一番印象に残りました。

 午後の準々決勝は期待どおり佐藤名人との対局になりました。しかも,藤井四段の先手番で,私はしっかりと表情がみられる席でした。
 戦法は横歩取りで,はじめっから少しずつ駒組の段階で藤井四段が指しやすい感じになりました。
 途中,手待ちで佐藤名人が2三金と上がったのが失敗で,そのスキにあっというまに飛車が攻められて藤井四段の駒得になったときは,ひょっとしたら勝つかな? と思いました。
 私が驚いたのはその後で,私のようなへぼはタダでとれる飛車を取るという局面で,飛車なんてもう用済みだとばかり,アッという間に寄せ形を作ってしまったことで,こういうところがプロなんだなあ,と思いました。すごいものです。しかし,どうして,生まれてわずか15年でこんなことができるようになるのでしょう。そのことの方が不思議でした。
 最後は,一手のミスもなく寄せきってしまいました。

 それにしても,夢のような2日間でした。そもそも,羽生竜王と藤井四段の姿を間近にみられるというだけでも感激ものなのに,両者とも2連勝,そしてまた,藤井四段は公式戦ではじめてタイトルホルダーに勝つ,という歴史的瞬間を目撃できたということです。「名人に香車を引いて勝つ」と物差しに書き残して家出をしたのが升田幸三実力制第四代名人ならば,「名人をこす(の上になる)」と小学校の作文に書いた藤井聡太四段は,ついにその願いを果たしました。
 何事も一流というのはすごいものです。もっと若いころにこういう機会があったなら,私の将棋の実力も今よりも少しはマシだったのに,と思ったことでした。

◇◇◇
藤井将棋の魅力-盤面全体に宝石をちりばめたよう

 名古屋の夏は大相撲からはじまりますが,今年の名古屋は大相撲に加えて,郷土の英雄となった藤井聡太四段効果で将棋もまた,盛り上がっています。
 私は子供の頃から天文と将棋に興味がありました。それはほそぼそと続き,今では生きる喜びの源となっています。
 そうした趣味ばかりに打ち込んでいたので,学校の勉強などしないから,生まれつき数学(算数)はできたのですが,語学はさっぱりでした。しかし,数学ができたおかげでこれまで不自由なく生きられました。語学(英語)は旅をしたり情報を入手するのに必要なので,不自由しない程度にはできるようになりましたが,今でも語学には才能がないなあとしみじみ感します。
 興味があった天文といっても,都会育ちでは,所詮,雑誌を読むか望遠鏡を買うだけで,満足に星を見たこともあるわけでなく,買い求めた望遠鏡やカメラを眺めて満足していただけでした。しかし,けっこうよいものを買っておいたおかげで,それらが今になって陽の目を見て,未だに現役として役立っているのがまた不思議なことです。
 将棋は大好きでしたが,指導者に習ったわけでもないので本質的にはなにもわかりません。それに強くなろうと思わなかったから,そのうちに観戦するだけになってしまいました。しかし,今になると,プロの将棋を観戦するときにその魅力がわかるというのは強みです。

 プロの将棋界は,つい先日まで三浦九段の出来事でイメージがかなり低下していたのに,これもまた,八百長問題でイメージが低下していた大相撲と並んで,このごろは人気がV字回復です。そこで,子供の将棋を習わせたいという人が多いのだそうですが,私の経験からいって,子どもに将棋を教えるのはかなりの「毒」なのです。私がそうだったからわかります。将棋は麻薬のようなもので,将棋の魔力の虜になってしまうと,勉強どころでなくなるのです。私のまわりにも,将棋に熱中したあまりに,受験に失敗したという人がたくさんいます。
 おそらく,そうした魔力を知らない親たちが,子供を塾に入れたりコンピュータゲームに熱中するよりはマシだと思ってそうしているのでしょうが,どっちみち,子供に何を期待しようと,もともと才能がない99%の人はただの大人になるだけだから,多大な期待はしないほうがいいのです。しかし,フィギアスケートやらピアノやらに比べれば,将棋に打ち込んでもさほどお金がかからないから,むしろ将棋にでも凝ってもらうほうがよいのかもしれません。受験に成功して希望した学校に入ろうと失敗しようと,ドリルをやって答えを埋める訓練をしているだけで何も身につかない日本の学校教育ならさほどの違いはありませんし。

 それはそれとして,藤井聡太四段の将棋というのは本当に魅力があります。
 私は,昔から,升田幸三という棋士の大ファンでした。
 その当時は,将棋というのは新聞で読むか雑誌で見るくらいしかできなかったのですが,朝日新聞で連載されていた名人戦の予選である順位戦の升田将棋は,その観戦記を書いていた東公平という記者の文章が魅力を増幅させて,その素晴らしさを味わうことができました。
 そのころに比べると,今は,インターネットの中継で,生の対局風景が味わえるようになりました。そしてまた,解説もライブで聞くことができるので,その素晴らしさも,当時とは比較にならないほど深く味わえるようになりました。しかし,これまでは本当に感動する将棋というのはなかなか出会えませんでした。
 プロの将棋はそれを観戦するアマチュアがあってこそ価値があるのですが,このごろは同じような難解な局面ばかりで,しかも,学問を追及しているような感じの,素人にまったくそのおもしろさがさっぱりわからないような対局が多く,私にはよさが皆目わかりませんでした。

 そうした将棋に比べると,藤井聡太四段の将棋というのは,生き物で躍動があり,感動とときめきが満ち溢れています。
 序盤から,定跡手順のスキに独特の手が繰り出され,いつの間にか盤面のいたるところに宝石をちりばめたかのような駒の配置になって,終盤になるにつれて,それらが光り出すのです。けっこう序盤から少し苦しくなる将棋が多いのですが,終盤戦がめっぽう強く,独特の感覚があるので,逆転する期待がたえずあるから,最後までわくわくします。
 ブームになると,それまでは興味がないのに突然群れて出てくる人たちがいるのですが,ここにもまたそういう人たちが存在し,彼らはやれ何を食べただとかどういうカバンを持っているだとか,わけのわからぬことを好んで話題とし,また,彼ら御用達の民放番組が視聴率だけのためにそれを取り上げて素人キャスターが騒いでいるのですが,いずれそのうち,彼らは飽きて消えていきます。藤井聡太四段の真価が問われるのはそのあとのことでしょうが,おそらく,本人も家族の人たちもしっかりしているから,そうした雑音に振り回されることもなく,藤井将棋は進化を遂げるものと期待します。
 私は,今になって再び藤井将棋の魅力を理解し味わうことができるだけでも,若いころに将棋の魔力の虜になりかかったことが無意味ではなかったと実感するのです。

◇◇◇
53歳の名人誕生か?-升田幸三・生涯最後の大勝負
AbemaTVの新しい将棋番組-「人間ドラマ」を観戦した!

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