私はこれまでさまざまな旅をしてきましたが,思い起こせば,奇跡的にうまく行ったことが数々あります。その一方で,心残りなこともまたいろいろあります。そうしたことすべてを含めて旅というのでしょう。
 しかし,何事も「塞翁が馬」,今となってはそれはそれですべてが思い出なのです。
 そのなかでも,海外旅行でいまでもつくづく残念だと思うことがあります。それは「ボストンの雨」です。
 私は,ボストンのフェンウェイパークでベースボールを見るのが長年の夢でした。そして入手困難と言われるチケットをなんとか手に入れて見にいったのですが,あいにく,そのゲームが雨で流れたのです。
 その前日にボストンに到着した私は,予定を変更して,チケットを買ったゲームが行われる,いや,雨で流れたその前日に,現地の金券ショップでチケットを入手してゲームを見ることができたので,奇跡的にフェンウェイパークでゲームを見るという夢はかないました。しかし,そのゲームは負けゲームだったので,当時,ボストンのクローザーだった上原投手を見損ねたというわけです。このことが今でも心残りなのです。
 蛇足ですが,今シーズン上原投手は日本の野球に復帰しました。そこで見ようと思えば日本で簡単に見られるのですが,私はメジャーリーガーの上原浩司だから見たいので,日本で投げる上原投手には全く興味がありません。それはほかのメジャーリーガーだった日本の選手も同様です。

 これまでに,国内もずいぶんと旅しましたが,こちらには心残りなことがふたつあります。
 そのひとつは「京都・貴船のホタル」,もうひとつは「2001年のしし座流星群」。その両方を見逃したことです。
 京都貴船のホタルは空高く舞うといわれます。ホタルが乱舞する最盛期は意外と短いのですが,ちょうどその最盛期に私はホタルを見にいく計画を立てました。しかし,一緒に出かけようとしていた友人たちの都合が悪いということで1週間延ばし。私はそんな馬鹿な,と思いましたがやむを得ません。そして,思った通り,その時期を逸してしまったのです。
 しし流星群のほうは,ホタルとは別の話ですが,これもまた京都へ行こうと友人たちに誘われて,ちょうど出かけた時期が流星群の日と重なり,流星群のほうを見損ねてしまったということなのです。
 この今では心残りになってしまったふたつのトラウマによって,残念ながら,旅は友人の都合を聞いていると大切な機会を逸するものだというのが教訓となってしまいました。
 星といえば,しし座流星群とともに「ウェスト彗星を見逃した」ことも私には思い出されます。

 しかし,考えてみれば,見逃したこと以上に奇跡的に見ることができたことの方がずっと多いわけで,こうした後悔は贅沢な後悔なのでしょう。けれど,逃がした魚は大きいということわざどおり,そうした残念は一生のトラウマになってしまうのです。
 こうした経験から,運は自らつかみにいくことだ,思い立ったことはそのときに実行しなければ,と私は思うようになったのです。まさに,
  「Dans la vie on ne regrette que ce qu'on n'a pas fait.」(人生において人はしなかったことだけを後悔する。)
です。

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「不良老人」の日常⑨-コクトー「しなかったことだけを…」

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